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<title>ゃなぎと書いてぁるがりゅぅと読みな！</title>
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<description>日々の出来事ゃたまにﾈﾄｹﾞの事を書ぃてぃこーと思います 更新率ゎ低いです（ぁてｗｗ</description>
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<title>まだらの紐２</title>
<description> 小さな横戸をはいると、なかは白壁の廊下があり、三つの寝室のドアがならんでいた。ホームズが端の寝室、つまり壁に穴のある部屋は見ないというので、私たちはまっすぐに中央の、現にストーナー嬢の寝室であり、かつてその姉が死んだという寝室へはいっていった。 　そこはふるいいなか家風に、｜天井《てんじよう》が低くて大きな｜暖《だん》｜炉《ろ》のある質素な小さい部屋で、｜一隅《いちぐう》に茶いろの｜箪《たん》｜笥
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<![CDATA[ <span style="font-size:x-small;">小さな横戸をはいると、なかは白壁の廊下があり、三つの寝室のドアがならんでいた。ホームズが端の寝室、つまり壁に穴のある部屋は見ないというので、私たちはまっすぐに中央の、現にストーナー嬢の寝室であり、かつてその姉が死んだという寝室へはいっていった。 <br />　そこはふるいいなか家風に、｜天井《てんじよう》が低くて大きな｜暖《だん》｜炉《ろ》のある質素な小さい部屋で、｜一隅《いちぐう》に茶いろの｜箪《たん》｜笥《す》が、他の一隅には白いカヴァーをかけた｜狭《せま》いベッドがすえてあり、｜化粧台《けしようだい》は窓の左がわに備えてあった。そのほか小さな｜籘《とう》｜椅子《いす》が二つと、中央に｜敷《し》いた正方形のウィルトン｜絨毯《じゆうたん》一枚がこの部屋の｜飾《かざ》りつけの全部である。羽目板やそのほかの部分はすべて虫のくった茶いろ仕上げの｜樫材《かしざい》で、おそらくこの家を建てたときのままなのであろう、古びて変色していた。ホームズは椅子の一つを｜隅《すみ》のほうへ引いていって腰をおろすと、部屋のなかは細大もらさず見てとろうと、｜黙《だま》って上下左右を見まわした。 <br />「あの｜呼鈴《よびりん》はどこへ通じていますか？」 <br />　しばらくして彼は、上からベッドのそばへ垂れ、端につけたふさが｜枕《まくら》のうえにだらりと乗っている｜太《＊》い｜紐《ひも》のことを｜尋《たず》ねた。【訳注　紐を引いて鳴らす旧式の呼鈴】 <br />「あれは家政婦の部屋へ行っております」 <br />「ほかのものにくらべて新しいようですね」 <br />「はい、つけてからまだ二年くらいにしかなりませんから」 <br />「姉上が｜頼《たの》んでつけておもらいになったんでしょうね？」 <br />「いいえ、姉が使いますのを聞いたことがございません。私たちはいつでも、自分のことは自分で足してまいりました」 <br />「なるほど。こんなに立派な紐は不必要だったでしょうね。ちょっと失礼して｜床《ゆか》を調べさせていただきますよ」 <br />　ホームズはレンズ片手に腹ばいになり、手ばやくはいまわって板の合せ目を｜検《あらた》めた。それから周囲の羽目板をおなじ要領で調べ、最後にベッドのところへ行って、しばらくそれを見まもってから壁にそって見あげ見おろししていたが、何を思ったか呼鈴の紐をつかんでグイと強く引いた。 <br />「おや、鳴らないぞ」 <br />「鳴りませんですか？」 <br />「鳴りません。鳴らないわけだ、針金につないでさえないです。こりゃアおもしろい。ほら、ご｜覧《らん》なさい。紐の端は空気ぬきの穴のうえのところで、｜鉤《かぎ》にむすびつけてありますよ」 <br />「あら、｜妙《みよう》ですこと。私すこしも気がつきませんでしたわ」 <br />「まったく妙ですよ」ホームズは紐を引いてみながらつぶやいた。「この部屋には｜合《が》｜点《てん》のゆかぬところが二、三ある。たとえば空気ぬきの穴を｜隣《となり》の部屋へ通じるようにあけるなんて、何というバカな建築技師だろう。おなじことならそとへあければ、新しい空気がはいってくるのに」 <br />「あれもずっと近年こしらえましたのです」 <br />「呼鈴とおなじころのことでしょうね？」 <br />「はい、ほかにも四、五カ所、そのとき工事をいたしました」 <br />「鳴らない呼鈴に風をとおさない｜通風孔《つうふうこう》――こいつは非常におもしろい性質をもつ問題ですよ。それではストーナーさん、こんどはこの｜奥《おく》の部屋を調べさせていただきたいものです」 <br />　隣のグライムズビー・ロイロット博士の寝室は、大きさこそ｜娘《むすめ》たちのよりは大きかったが、設備はおなじように質素なものであった。折りたたみベッド、主として医書ばかりぎっしり｜詰《つ》まっている小さな木製の｜本棚《ほんだな》、ベッドのわきに｜肘掛《ひじかけ》椅子、壁によせておかれた｜粗《そ》｜末《まつ》な木の椅子、｜円卓《えんたく》、大きな金庫――これらが目についた｜主《おも》なものである。ホームズはそれらのものに｜鋭《するど》い注意を集中して、たんねんに見てまわってから、 <br />「このなかには何がありますか？」と金庫をぴたぴたとたたいた。 <br />「父の仕事上の書類がいれてございます」 <br />「へえ、ではなかをご覧になったことがあるのですか？」 <br />「何年かまえに、いちどだけ見たことがございます。なかは書類でいっぱいでございました」 <br /><br />「｜猫《ねこ》かなにかいるんじゃありませんか？」 <br />「いいえ、まあ、なんておもしろいことを！」 <br />「だって、これをご覧なさい」ホームズは金庫のうえにあった牛乳の｜小《こ》｜皿《ざら》をとってみせた。 <br />「いいえ、私どもでは猫は｜飼《か》っておりません。｜豹《ひよう》と｜狒々《ひひ》はおりますけれど」 <br />「ああそうそう。そうでしたね。でも豹は大きな猫みたいなものです。こんな小さな皿に一｜杯《ぱい》きりの牛乳じゃ満足するはずはありませんけれどね。そうだ、一つ確かめておきたいことがあります」 <br />　ホームズは木の椅子のまえにしゃがみこんで、非常に注意ぶかくそのシートの部分を検めた。 <br />「ありがとう。これでだいぶはっきりしました」と彼は立ってレンズをポケットにおさめながらいった。「やア、ここにおもしろいものがある」 <br />　彼の注意をひいたのは、ベッドの角にかけてあった小さな犬用の｜鞭《むち》である。鞭は先の紐の部分を丸く輪にしてむすんであった。 <br />「ワトスン君、これを何だと思うね？」 <br />「ただの鞭だろう。なんのためにそこを輪にしてむすんだのか知らないがね」 <br />「これがかい？　ただの鞭とは見えないじゃないか。ああ世の中は｜恐《おそ》ろしい！　ことに｜知《ち》｜恵《え》のある人間が悪事に頭をしぼるようになったら、これほど恐ろしいことはない。ストーナーさん、これで見たいところは十分見せていただきましたから、庭の芝生へ出ようじゃありませんか」 <br />　このときの調査のあとくらいホームズがむっつりと暗い顔をしたのを、私は見たことがなかった。三人つれだって芝生を｜往《い》ったりきたり、ぶらぶらしているのだが、｜眉《まゆ》にきっと｜皺《しわ》をよせてホームズの苦りきっていること。私もストーナー嬢も彼の｜黙想《もくそう》の｜邪《じや》｜魔《ま》になってはと、一言も口をきかないで五、六回も往復したろうか。 <br />「ストーナーさん」やっと彼の｜思《し》｜索《さく》が一段落ついた。「あなたはあらゆる点で、私の忠告に絶対に服従してくださることが｜肝心《かんじん》ですよ」 <br />「はい、きっとそういたします」 <br />「事態がきわめて｜切迫《せつぱく》していますから、すこしでもためらうようなことがあってはなりません。私のいうとおりになさらないと、一命に｜係《かか》わるかもしれませんよ」 <br />「｜誓《ちか》ってお言葉にしたがいます」 <br />「まずだいいちに、今晩は私とワトスン君が二人で、あなたのお部屋で夜をあかさなければなりません」 <br />　これにはストーナー嬢も私も｜驚《おどろ》いて、ホームズの顔を見なおした。 <br />「必ずそうしなければなりません。お待ちなさい。あそこに見えるのが村の宿屋でしょうね？」 <br />「はい、クラウン旅館でございます」 <br />「あそこから、あなたのお部屋の窓が見えるでしょうね？」 <br />「はい、よく見えます」 <br />「父上が帰られたら、あなたは頭が痛いからといって、部屋へとじこもるのです。そして父上がおやすみになる様子が聞えたら、窓の鎧戸をあけ、ガラス戸の｜締《しま》りをはずして合図にランプを出しておいてください。そのあとであなたは必要な品をもって、あなたがもと使っていらした部屋へいっておやすみなさい。｜修繕中《しゆうぜんちゆう》でもひと晩くらいはどうにか｜我《が》｜慢《まん》ができなくはありますまい」 <br />「はい、それは何でもございません」 <br />「そしてほかのことは、すっかり私たちにおまかせくださるのです」 <br />「それであなたがたは何をなさいますの？」 <br />「あなたのお部屋で夜をあかして、あなたを驚かした物音が何の音だか確かめるのです」 <br />「ではあなたには、もうすっかりおわかりなんでございましょうね？」ストーナー嬢はホームズの｜袖《そで》に手をかけていった。 <br />「まあね」 <br />「ではお願いでございます。姉の｜亡《な》くなりました原因をお教えくださいませ」 <br />「それを申しあげるのは、たしかな｜証拠《しようこ》を手にいれてからのことにしたいのです」 <br /><br />「では私の考えが正しいかどうかだけでもおっしゃってくださいませ。姉はやっぱり何かに急に驚いて亡くなりましたのでしょうか？」 <br />「そうではありますまいね。もっと何か捕えどころのある原因があったろうと考えます。それではストーナーさん、私たちはもう参ります。ロイロット博士が帰ってきて見つかると、せっかく私たちが来たのがむだになりますからね。ではのちほど。私の申しあげたとおりにしてさえくだされば、じきに危険を除いてあげられるのですから、けっして心配なさらないで、勇気をお出しなさい」 <br />　クラウン旅館で居間つきの寝室を｜占領《せんりよう》するのは造作もないことだった。それは二階の一画で、窓からはストーク・モーラン屋敷の入口の｜並《なみ》｜木《き》｜路《みち》や、建物の現在使われている部分などが、一望のうちに見わたされた。夕ぐれのころロイロット博士が馬車で帰ってくるのが見えた。｜手《た》｜綱《づな》をとる少年に比して恐ろしく｜巨大《きよだい》な姿。少年が重い鉄門をあけかねて、すこしばかり手間どっていると思ったら、たちまち博士が馬車のうえから｜荒《あら》い声でどなりつけるのが聞え、少年に向って｜拳《こぶし》をふりあげて｜威《い》｜嚇《かく》するのが見られた。馬車はふたたび走りだした。そして二、三分後には居間の一つにランプがともされたと見え、木立のあいだにパッと光がさした。 <br />「ねえワトスン君」｜迫《せま》りくる｜夕闇《ゆうやみ》のなかでホームズが話しかけた。「今晩君を引っぱりだしてもいいものか、｜僕《ぼく》は少々ためらっているんだよ。みすみす危険のあるのがわかってるんだからね」 <br />「僕がいたって助けにゃならないのかい？」 <br />「そりゃあ、どんなに助かるか知れやしない」 <br />「じゃどんなことをしたって、僕は行くよ」 <br />「そうかい。感謝するよ」 <br />「危険があるというが、すると君はあの家で、僕が気のつかなかったものを何か見てきたんだね？」 <br />「いや、何も変ったものを見たわけじゃないよ。推定だけはいくらか深かろうと思うがね。見るだけなら君だって僕とおなじだけには見ていたじゃないか」 <br />「僕が変だと気がついたのは呼鈴だけだ。それも何のためにあんなことをしたんだか、まったく見当もつかないんだがね」 <br />「通風孔だって見たろう？」 <br />「見たさ。見たことは見たけれど、部屋と部屋とのあいだに小さな穴があるのは、それほど不思議がることはないと思うよ。それにあの穴は｜鼠《ねずみ》も通れないくらい小さな穴なんだものね」 <br />「僕はこの土地へ来るまえから、通風孔はあるとにらんでいた」 <br />「まさか！」 <br />「いや、ちゃんと知っていたんだ。あの娘の話のうちに、姉がロイロット博士の葉巻の｜匂《にお》いに｜悩《なや》まされたというところがあったろう？それを聞いただけで、二つの部屋に｜連絡《れんらく》があるのを思わせる。しかもそれはきわめて小さい穴でなければならない。ドアか何かの大きなものなら、必ず｜検《けん》｜屍《し》｜官《かん》の注意をひいて問題になっているはずだからね。そこで僕はてっきり通風孔と｜踏《ふ》んだのだ」 <br />「それにしたって、あんな小さなものが害にはなるまい」 <br />「すくなくとも時間的に不思議な偶然の一致があるのは注意を要する。通風孔と呼鈴の工事と姉の死とがだいたい同じころのできごとだ。変だとは思わないかい？」 <br />「さア、何か関連でもあるのかしら？」 <br />「あの娘の部屋のベッドは非常に妙だと思わなかったかい？」 <br />「気がつかなかったね」 <br />「あのベッドは床に｜鎹《かすがい》どめになっていた。床に固定したベッドというものがどこにある？」 <br />「そいつは僕も見たことがないようだな」 <br />「姉はベッドを動かしたくても動かせなかったんだ。ベッドは通風孔と綱とにたいして、つねに同じ関係の位置にあった。――あの紐が呼鈴用でないことは確実だから、あれは紐でなくむしろ綱というべきだろう」 <br />「ふむ！　僕はなんだか君のいってることが、おぼろげながらわかってきた気がするよ。これはじつに恐るべき｜巧妙《こうみよう》な犯罪がまさに実行されようとしているのじゃないか？」 <br />「じつに巧妙、じつに恐るべき犯罪だ。医者が悪事をはじめるとなると、最も恐るべきことをやるものだ。｜彼《かれ》らは度胸もあり、学識ももっているからね。ジョン・クックを毒殺したパーマーにしても、自分の妻を毒殺したプリッチャードにしても、医者としては一流だったんだ。この男にいたっては、あの手合をしのぐ｜曲者《くせもの》だが、それでも僕はそのうえを｜越《こ》すことができるつもりだ。今晩はずいぶん恐ろしい思いをしなきゃならないんだから、せめていまのうちに二、三時間でも、静かにパイプをやりながら｜愉《ゆ》｜快《かい》にすごそうよ」 <br />　 <br />　｜樹《き》の間をもれていたあかりは九時ごろに消えてしまって、｜屋《や》｜敷《しき》のほうはまっ暗になった。それから二時間が静かにすぎて、時計が十一時をうったと思うと、とつぜん、正面に一個のあかりがきらめきだした。 <br />「合図のあかりだ。ふむ、まん中の窓だな」ホームズは椅子をけって立ちあがった。 <br />　出るときホームズは宿の｜亭主《ていしゆ》を｜捕《つか》まえて、知人を訪問するのだが都合では朝まで帰らないかもしれぬと告げた。暗い戸外に出て往来に立つと、冷たい風がさっと｜頬《ほお》をなでた。不気味な使命をおびた私たちの｜唯一《ゆいいつ》の道しるべとなってくれる黄いろいランプの光が、樹の間にちらちらと｜明滅《めいめつ》する。 <br />　｜塀《へい》のくずれがそのままに手入れもされず大きく口をあいていたから、屋敷うちへはいるにはほとんど何の苦労もなかった。樹の間をくぐって｜芝《しば》｜生《ふ》へたどりつき、それを横断して窓からはいりこもうとすると、こんもり｜茂《しげ》った｜月桂樹《げつけいじゆ》のやぶのなかから、不具の子供のような不気味なものがとび出して、みずから草のうえに｜倒《たお》れて手足をもがいていたが、たちまち起きあがって闇のなかへ姿を｜隠《かく》してしまった。 <br />「おやッ、見たかい？」私は息をころした。 <br />　ホームズもちょっと驚いたらしい。内心の｜動揺《どうよう》にぎゅっと強く私の手首を｜握《にぎ》りしめたが、すぐに低い声で笑いをもらし、私の耳に口をよせていった。 <br />「あれはかわいい家族の一員、｜狒々《ひひ》なんだよ」 <br />　そうだ、ロイロット博士の愛している狒々のことを忘れていた。このほかに｜豹《ひよう》もいるはずだが、こいつは用心しないといつどこからとびだして、うしろからがぶりとやられるかもしれない。正直なところ私は、ホームズをまねて｜靴《くつ》をぬぎ窓から｜寝室《しんしつ》へはいりこんだときは、やれやれよかったとほっとしたのである。 <br />　ホームズは音を立てないように｜鎧戸《よろいど》をしめ、ランプをテーブルにうつして、おもむろに部屋のなかを見まわした。部屋のなかはひる間見たのとすこしも変りはない。ホームズは私のそばへすりよって、手をらっぱのようにして私の耳へあて、やっと聞きとれる低い声でささやいた。 <br />「こそっとでも音をたてると、計画がまるでだめになるんだよ」 <br />　私はうなずいて、｜了解《りようかい》したのを知らせた。 <br />「あかりなしですわっているんだ。つけると通風孔から見えるからね」 <br />　私はふたたびうなずいた。 <br />「｜眠《ねむ》っちゃいけないよ。眠ると一命にも係わるかもしれない。ピストルをいつでも使えるように用意してね、その椅子にいたまえ。僕はベッドにこっちから｜腰《こし》かけている」 <br />　私はピストルを出してテーブルの上においた。 <br />　ホームズはもってきた細長いステッキを｜膝《ひざ》のわきにおき、そのそばへマッチと｜蝋燭《ろうそく》を一本用意した。それからランプの｜芯《しん》を回して消したので、あたりはまっ暗になってしまった。 <br />　あの恐ろしかった｜徹《てつ》｜夜《や》がどうして忘れられよう。いまでもはっきり当時を思い｜浮《うか》べることができるが、じっとすわって耳をすましているのに、ことりという物音もしない。わずか数フィートをへだてたばかりでホームズが、私にも｜劣《おと》らず針のように神経をとがらせて｜緊《きん》｜張《ちよう》しているにちがいないのに、息づかいさえ聞えないのである。鎧戸がしめてあるから部屋のなかはうすあかりさえない真の闇で、そとではときどき夜鳥の鳴くのが聞え、たったいちどだけ窓のすぐそばで、長く尾をひいた猫の鳴声のようなものがしたが、それは豹がとき放たれているのだと知れた。はるかに遠い教会で十五分ごとに鳴る｜荘重《そうちよう》な｜鐘《かね》の音が聞えた。その鐘と鐘のあいだの十五分がどんなにながく感じられたことか！　十二時が鳴り、一時二時が鳴り、そして三時が鳴ったが、それでもまだ私たちは緊張しきって、無言の行をつづけなければならなかった。 <br />　とつぜん、｜通風孔《つうふうこう》の方角からパッと光がさした。すぐ消えてしまいはしたが、油の燃える匂い、金属の熱せられる匂いがぷんと鼻をうった。｜誰《だれ》か｜隣《となり》の部屋で｜龕灯《がんどう》をつけたのだ。静かに人の動く気配が感じられた。が、それもすぐ静まり、ただ龕灯の燃える匂いだけがしだいに強くなった。耳だけを極度に緊張させていること、それから三十分。ふと別の音がかすかに聞えるようになった。きわめて｜柔《やわ》らかくおだやかな、さやさやと｜薬《や》｜缶《かん》から細く湯気でもふきだすような音である。それが聞えだすとすぐにホームズは立ちあがり、マッチを｜擦《す》って、｜呼鈴《よびりん》の綱をはっしとばかりステッキで強くうった。 <br /><br /><br />「見たかい？　え、あれを見たろう？」ホームズがうわずった声で｜叫《さけ》んだ。 <br />　だが私には何も見えはしなかった。ホームズがマッチを擦った｜瞬間《しゆんかん》に、低い｜口笛《くちぶえ》をはっきりと聞くことは聞いた。けれども闇に慣れた｜眼《め》にマッチの｜閃光《せんこう》がぱっとはいったのでまぶしくて、彼が何をあんなにひどくうちすえたのか、私には見てとれなかったのである。私の見たのは彼の顔が死人のごとく血の気がなく、｜恐怖《きようふ》と｜嫌《けん》｜悪《お》とをいっぱいにうかべていたことだけである。 <br />　ホームズはうつ手をとめて、じっと通風孔のほうを見あげていた。すると、世にも恐ろしい悲鳴が夜の｜静寂《せいじやく》を破って、私たちを驚かせた。その悲鳴はしだいに大きくなった。苦痛と恐怖と｜憤《ふん》｜怒《ぬ》とを交えた叫びであった。あとで聞いたところによればこの悲鳴は村まで――村を通りこして牧師館までも聞え、人々の眠りを破ったばかりでなく、なかには｜寝《ね》｜床《どこ》をとびだした人もあるという。私たちは心の底まで縮みあがり、たがいに顔を見合せたまま、しばらくそこに立ちすくんでいるのみであった。だがさしもの声もしばらくするとやんで、あたりはふたたびもとの静寂にもどった。 <br />「な、なんだろう？」 <br />「すべてが終ったしらせさ。しかも、そう、結局こうなるのがいちばんよかったのだ。さ、ピストルをもってきたまえ。ロイロット博士の部屋へ行ってみよう」 <br />　ホームズは緊張した顔つきでランプをつけ、先に立って｜廊《ろう》｜下《か》を進んだ。二度ドアをたたいてみたが返事がないので、そのままハンドルを回してなかへはいっていった。私は｜撃鉄《げきてつ》をあげたピストルを手に、すぐそのあとにつづいた。 <br />　まず私たちは異様な光景にうたれた。テーブルのうえには半ば窓をあけた龕灯があって、それから流れでる明るい光のなかに、戸をあけたままの金庫があった。ロイロット博士はテーブルのわきに、長い鼠いろのガウンにくるまって、｜素《す》｜足《あし》に｜踵《かかと》のない赤いトルコ・スリッパを｜突《つ》っかけ、木の｜椅子《いす》に腰かけていた。そしてひる間見た短い｜柄《え》に長い｜紐《ひも》のついた鞭を膝に、ぐっと｜仰《あお》｜向《む》いて｜天井《てんじよう》の一角をにらみつけており、頭のまわりには茶色の｜斑点《はんてん》のある黄いろい変な紐みたいなものを、しっかりまきつけているのであった。私たちが無断ではいったのに、口もきかなければ身動き一つしないのである。 <br /><br />「紐だよ。あれが｜まだらの紐《スペクルド・バンド》だよ」ホームズがささやいた。 <br />　私は一歩前へすすみでた。するとふいに、頭にまいた｜奇《き》｜怪《かい》な紐が動きだして、ずんぐり太い｜菱形《ひしがた》の頭を｜押《お》したて、博士の｜髪《かみ》のなかからいまわしい｜蛇《へび》がぬっと｜鎌首《かまくび》をもたげたのである。 <br />「｜沼毒蛇《ぬまどくへび》だ。インドで最も｜恐《おそ》るべき毒蛇なんだ。博士は｜咬《か》まれてから十秒以内に死んでいる。暴力をふるう者には必ず暴力がはねかえってくる。ひとのために穴を｜掘《ほ》る者は、必ず自分がその穴に落ちるのだ。まずこの蛇を｜巣《す》へ追いこんどいて、ストーナー｜嬢《じよう》を安全な場所へうつしてから、このことを警察へ届けるとしよう」 <br />　ホームズは死人の膝から手ばやく鞭をとってその輪を蛇の頭にかけ、恐ろしい止り木から引きはなして、手をいっぱいに｜伸《の》ばして運んでゆき、金庫のなかへ投げこむや｜否《いな》や、ぴたりとその戸をしめてしまった。 <br />　 <br />　以上がストーク・モーランのグライムズビー・ロイロット博士の死の真相である。意外に話がながくなったので、｜怖《おそ》れおののいているストーナー嬢にこの悲報をどんなふうに話して聞かせたか、どんなふうにして｜彼女《かのじよ》をハローのよき叔母さんのもとへ送り届けたか、また博士は｜軽率《けいそつ》にも危険な毒蛇をもてあそんでいて誤ってかまれて死んだのだという結論に達するまでの、警察の調べがいかにじれったいものであったかという一条など述べて、ながい話をこのうえながくする必要はあるまい。もっとも当時私にはまだすこしわかりかねる節もあったが、それは翌日帰りの汽車のなかでホームズが説明してくれた。その説明だけをちょっとここにつけ加えておこう。 <br />「僕はまったく誤った推定を下していた。不十分な資料で推理するのがつねに危険を｜伴《ともな》うという格好な実例だよ。付近にジプシーのいたこと、死んだ姉がマッチの光でちらと見て口走ったバンドという言葉などは、｜僕《ぼく》をまったく誤った方向へすすませるに十分だった。ただ現場へ来てみて、あの部屋にいる者を｜嚇《おど》かした危険が何ものであったにもせよ、それは窓から来るのでもなく入口から｜侵入《しんにゆう》したのでもありえないと知って、出なおして再考することにした点だけが、わずかに僕の｜誇《ほこ》りうるところだろう。 <br />　まえにも話したとおり僕の注意は｜敏速《びんそく》に、通風孔とベッドに垂れている呼鈴の紐とに向けられた。紐がまったく呼鈴の役をなさないのを知り、ベッドが｜釘《くぎ》づけになっているのを見て、すぐこいつはあの穴から何かが出てきてベッドへゆくための足場じゃないかという考えがうかんだ。そこまでくれば蛇という観念はすぐおこる。そして博士がインドから動物をとりよせたという事実と考えあわせて、これはいよいよほんものをたどりあてたと思った。どんな｜分析《ぶんせき》試験にあっても見破られないですむ毒物を使うという考えは、ながらく東洋へ行ってきた東洋仕込みの利口な男の思いつきそうなことだ。この毒の効果が｜迅速《じんそく》だということも、彼としては有利だと計算にいれていたにちがいない。｜毒《どく》｜牙《が》のくいこんだ｜痕《あと》はぽつりとほんの小さな黒い傷が二つのこるだけだから、よくよく目のきく検屍官でないかぎり、見のがしてしまうほうが｜普《ふ》｜通《つう》なんだ。 <br />　それから僕は口笛のことを考えた。むろん夜のあけないうちに蛇を呼びもどさなければ、｜犠《ぎ》｜牲者《せいしや》に見つかってしまう。そこでたぶんあの牛乳を使って、口笛で呼べばもどってくるように蛇を慣らしたにちがいない。そうして最もよいと信ずる時刻を見はからって、紐を伝わってベッドへ降りてゆくように、蛇を通風孔へいれてやったんだ。もちろん蛇はいちどで必ず咬むとはきまっていない。毎夜はなしてやっても、あるいは一週間くらいも咬まずにすぎるかもしれない。それにしてもいつかは咬みつかないではおかないのだ。 <br />　ここまではロイロットの部屋へはいってみないうちに推定してしまった。部屋へはいって椅子を調べてみて、彼がしばしばそのうえに乗るということを発見した。むろん蛇を通風孔へいれるとき踏み台にしたのだ。そのうえ金庫、ミルクの｜皿《さら》、輪にして結んだ鞭の紐、これだけ見ればもはや一点疑問の余地はない。 <br />　ストーナー嬢がガチャンと金物の落ちる音を聞いたというのは、ロイロットが蛇を金庫へいれて大急ぎで戸をしめた音だ。ここまでわかると僕が証拠を握るためどんな手段をとったか、それは君の知っているとおりだ。君も聞いたろうが、あのとき蛇がシュッシュッという音を出すのを耳にしたから、すぐマッチを擦ってステッキでうったんだ」 <br />「その結果、蛇は通風孔から｜逃《に》げてかえったんだね」 <br />「そしてその結果、｜壁《かべ》の向うで主人に｜襲《おそ》いかかることになったのだ。僕の叩いたのが二つ三つよほどきいたものだから、｜怒《おこ》って恐ろしい蛇の｜本性《ほんしよう》を現わし、目につきしだい相手選ばず、がぶりと咬みついたのだ。したがって僕としてはロイロットの死に間接の責任はあるわけだが、さればといってたいして良心に｜負《ふ》｜担《たん》も感じないがね」 <br />―一八九二年二月『ストランド』誌発表―</span> ]]>
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<dc:date>2009-08-18T09:24:23+09:00</dc:date>
<dc:creator>柳ちぁん</dc:creator>
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<title>オレンジの種五つ</title>
<description> 　一八八二年から同九〇年までの、シャーロック・ホームズが手がけた事件を書きとめた私の記録をくってみると、｜怪《かい》｜奇《き》な、興味ある事件が非常に多いので、どれをとりどれをすてるべきか、その｜選択《せんたく》は容易でないのである。けれどもそのなかには新聞ですでにひろく報道しつくされたものもあるし、また、ホームズのきわめて多分にもつ｜特殊《とくしゆ》な才能を｜駆使《くし》するほどの余地もなく、し
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<![CDATA[ <span style="font-size:x-small;"><br />　一八八二年から同九〇年までの、シャーロック・ホームズが手がけた事件を書きとめた私の記録をくってみると、｜怪《かい》｜奇《き》な、興味ある事件が非常に多いので、どれをとりどれをすてるべきか、その｜選択《せんたく》は容易でないのである。けれどもそのなかには新聞ですでにひろく報道しつくされたものもあるし、また、ホームズのきわめて多分にもつ｜特殊《とくしゆ》な才能を｜駆使《くし》するほどの余地もなく、したがってここに説きしるす目的にそわないものもいくつかはある。なおまたなかには、｜彼《かれ》が、練達な｜分析《ぶんせき》も｜空《むな》しく、物語としてははじめあって結末のないという事件もあるし、一部分だけしか疑問が解決されず、結局彼のあれほど好きな純理論的証明は得られずして、｜揣摩《しま》｜臆測的《おくそくてき》説明を下しえたにすぎぬというのもいくつかはある。<br />　だが、この最後の部類に属するもののなかに、一つだけあまりに｜珍《めずら》しい内容をもち、その結末のあまりに意外なものがあって、そのなかの二、三の点はホームズにもわからなかったし、将来とても、永久に解けることはないであろうが、それにもかかわらず私はこの事件の｜顛末《てんまつ》を、ここに筆にしてみたくてならないのである。<br />　一八八七年という年は、私たちに興味深い事件や、さほどでもないものを数多く提供してくれた。いちいち記録をとっているが、この一年間の事件の表題をみると、「パラドールの部屋」事件だの、ある家具倉庫の地下室に｜贅沢《ぜいたく》なクラブを設けていた「｜素人《しろうと》｜乞《こ》｜食《じき》協会」事件だの、三｜檣《しよう》のイギリス｜帆船《はんせん》ソフィ・アンダースン号の｜失跡《しつせき》にからまる事件だの、アファ島におけるグライス・ピータースン一家の怪奇な事件だの、カンバウェル区の毒殺事件だのがある。<br />　この最後の事件では、まだ｜記《き》｜憶《おく》する人もあるかもしれぬが、ホームズは死人の時計のねじをまいてみて、それが二時間まえにすっかりまかれたものであること、したがって｜被《ひ》｜害《がい》｜者《しや》が｜寝《ね》｜床《どこ》へはいってから、二時間以上を経過していないことを証明した。この推断こそはじつに、この事件解決の最大の｜鍵《かぎ》となったのである。これらの事件はいずれ機を見て書くこともあろうけれど、そのうちのどれをとってみても、いまここに書こうとしているもののように、つぎつぎと怪奇なできごとの続発するという異常な様相を備えたものはないのである。<br />　九月下旬の、例年になく強い｜彼《ひ》｜岸嵐《がんあらし》の｜吹《ふ》きあれているときだった。終日風は吹きすさび、雨は窓をたたきつけ、ここ｜人《じん》｜為《い》のかぎりをつくした大ロンドンのまっただなかにいてさえ、しばしわれわれは心を日常生活の｜常軌《じようき》からひきはなし、おりのなかにとじこめられた慣らされていない｜野獣《やじゆう》のように、文明の｜鉄格《てつごう》｜子《し》のあいだから、人類めがけてほえつづけているこれら大自然の｜威力《いりよく》の存在を、改めて｜認識《にんしき》させられるのだった。<br />　日の｜暮《く》れかかるにつれて、嵐はますますひどくなり、風は｜煙突《えんとつ》のなかで子供のように泣き｜叫《さけ》んだり、しゃくりあげたりしていた。シャーロック・ホームズは｜暖《だん》｜炉《ろ》の片がわに｜陣《じん》どって、むっつりと、例の犯罪記録に｜索引《さくいん》をつけているし、私は反対がわで｜ク《＊》ラーク・ラッセル【訳注　ウィリアム・クラーク・ラッセル。一八四四―一九一一。イギリスの小説家。長編の海洋小説を書いた】の海洋小説に｜夢中《むちゆう》になっていたが、戸外に｜荒《あ》れ｜狂《くる》う嵐が本のなかに溶けこんで、雨のしぶきがひろがって、波の｜飛《ひ》｜沫《まつ》のようにさえ思われるのだった。妻がおばの家へ｜泊《とま》りに行ったので、二、三日まえから私は、ベーカー街の｜古《ふる》｜巣《す》にホームズといっしょの朝夕をすごしていたのである。<br />「おや！」ふと私は顔をあげて、ホームズを見た。「｜呼鈴《よびりん》が鳴ったようじゃないか。こんな晩に｜誰《だれ》が来たのだろう？　君の友人だろうね？」<br />「僕は君のほかに、友達は一人もないよ。話しに｜来《こ》いと人にすすめたこともない」<br />「じゃ｜依《い》｜頼人《らいにん》かな？」<br />「もしそうなら、重大な事件だね。さもなければこんな日に、しかもこんな時刻になって来るはずがないよ。だが｜僕《ぼく》は、下宿のかみさんの仲よしでも来たとするほうが、あたっていると思う」<br />　だがホームズのこの臆測は誤っていた。やがて｜廊《ろう》｜下《か》に足音がして、ノックするのが聞えたのである。ホームズは手をのべてランプを自分のそばから遠のけ、はいってきた者のかけなければならない｜椅子《いす》ちかく｜押《お》しやってからいった。<br />「どうぞ」<br />　はいってきたのはせいぜい二十二くらいの若い男で、｜髪《かみ》かたちも服もきちんとして、態度にはどこか洗練された上品さがあった。手にした｜傘《かさ》からタラタラ水の垂れているところといい、ながい｜雨外套《あまがいとう》の｜濡《ぬ》れ光っているところといい、彼の｜冒《おか》してきた嵐が、どんなにひどいものであるかを物語っていた。彼は明るいランプの光を浴びて、不安そうにあたりを見まわした。非常な心痛にうち｜挫《ひし》がれでもした人のように、その顔は青ざめ、その｜眼《め》ははれぼったかった。<br /><br />「どうも相すみません」｜金縁《きんぶち》の鼻めがねを顔にあてながら彼はいった。「お｜邪《じや》｜魔《ま》じゃありますまいね。きれいなお部屋へこんな｜態《ざま》でとびこんできまして……」<br />「外套と傘をこちらへお出しなさい」ホームズがいった。「ここへかけておけば、すぐかわくでしょう。あなたは西南地方からいらしたのですね？」<br />「はい、サセックス州のホーシャムから参りました」<br />「｜靴《くつ》の先についている｜粘《ねん》｜土《ど》と｜白《はく》｜堊《あ》の混合物は、かなり独特のものですからね」<br />「じつはご意見をうかがいにまいったのですが……」<br />「おやすいご用です」<br />「それにご助力も願いたいので」<br />「そのほうは、おやすいご用とゆきかねることもありますよ」<br />「ご名声は｜承《うけたまわ》っています。プレンダーガスト｜少佐《しようさ》から、タンカーヴィル・クラブの｜醜聞《しゆうぶん》問題で、あなたがどんなふうにあのかたをお救いくだすったか……」<br />「ああ、あれですか。少佐はカードでインチキをしたという無実の罪をこうむったのですよ」<br />「あなたにお願いすれば、どんな難問でも必ず解決してくださると少佐は申しています」<br />「それは少佐がすこし買いかぶっていますよ」<br />「あなたはまだ失敗したことのないかただといって……」<br />「失敗は四回しています。男を相手に三回、女で一回ね」<br />「でも成功の場合に｜比《ひ》｜較《かく》すれば、そんなのは物の数でもございますまい」<br />「まアたいていの場合、成功するのは事実ですがね」<br />「それなら私の場合にも、成功なさらぬはずはありますまい」<br />「どうぞ椅子を火のそばへよせて、あなたの事件の要点を話してみてください」<br />「じつはたいへん異様な事件なのでして……」<br />「私のところへくる事件で、そうでないのは一つもありません。どこでももてあました事件を、最後に私のところへもちこむのですから」<br />「そううかがってもまだ私は、数多いご経験のうちにも、私の一家におこった事件ほど不思議な、わけのわからぬ話をお聞きになったことがおありかどうか、疑問だと思います」<br />「お話はなかなかおもしろそうです。どうぞはじめから順を追って、要点だけ聞かせてください。そのうえで私のほうから、最も重要だと思う点を、｜詳《くわ》しくお｜尋《たず》ねすればよいと思います」<br />　青年は椅子を前へすすめ、濡れた足を火のほうへ出しながら話しだした。<br />「私は名をジョン・オープンショウと申します。私の考えるところでは、私自身はこの｜恐《おそ》ろしい事件とは何の関係もありません。ただ問題は先代から引きつづいているのですから、はっきりおわかりねがうためには、｜昔《むかし》にさかのぼって申しあげなければなりません。<br />　まず、私の祖父には二人の｜息子《むすこ》のあったことから申しあげなければなりません。兄がイライアスで、弟が私の父ジョゼフです。父ジョゼフはワリックシャーのカヴェントリーに小さな工場をもっていましたが、自転車の発明されたころで、それに乗じて工場をずいぶん拡張しました。オープンショウの｜耐久《たいきゆう》タイヤのパテントをもっていましたからで、たいへん成功して、のちにそれを売ってかなり資産を得、安楽な｜隠居《いんきよ》生活にはいりました。<br />　おじのイライアスのほうは若くしてアメリカに｜渡《と》｜航《こう》し、フロリダで農場を経営して、かなりの成功をみたといわれますが、南北戦争で南軍のジャクスン将軍の部下として戦い、一八六三年将軍｜陣没《じんぼつ》｜後《ご》は、フッド将軍のもとにあって大佐まで｜昇進《しようしん》しました。しかし六五年南軍の｜総帥《そうすい》リー将軍｜降伏《こうふく》｜後《ご》は、ふたたび農場へ帰って、三、四年そこで｜暮《くら》していましたが、一八六九年か七〇年かにこちらへ帰ってきて、サセックス州のホーシャムのちかくに小さな地所を買いとって、そこに住むことになりました。<br />　おじはアメリカでかなりの財産をこしらえましたが、それがアメリカを去ったわけは、黒人ぎらいなのと、その黒人に公民権を｜与《あた》える共和党の政策が気にいらなかったからです。｜偏屈《へんくつ》で、いたって短気な｜癇癪《かんしやく》もちで、｜怒《おこ》るとずいぶんひどい｜毒舌《どくぜつ》をはきますが、ふだんはごく｜引《ひつ》｜込《こ》み思案の人でした。何年となくホーシャムのちかくに住んでいながら、いちどだって町へ出たことがあるかどうか疑わしいくらいです。<br />　家には庭もあり、畑も二、三ありましたから、よくそこで運動していましたが、どうかすると何週間もぶっとおして部屋にとじこもってばかりいることも、珍しくはありませんでした。ブランディをたいへんのみ、タバコもずいぶんやりましたが、交際というものがきらいで、友人をほしがらず、肉親の弟とさえあまり｜往《ゆ》き｜来《き》はしませんでした。<br />　でも私だけは特別でした。はじめて会ったのが私の十二、三の｜腕白《わんぱく》のころでしたから、私だけはお気にいりだったのです。これが一八七八年と思いますから、イギリスへ帰ってきてから七、八年目のことです。おじは父に話して私を｜屋《や》｜敷《しき》へ引取っていっしょに暮すことになりましたが、おじ流にひどくかわいがってくれました。そして酒をのんでいないときは、私を相手に好んで｜双六《すごろく》や｜碁《ご》をして遊び、｜召使《めしつかい》や出入り商人にたいしては、私に代理をつとめさせましたから、十六の年にはいっぱし家事を心得るようになりました。｜鍵《かぎ》もすっかり預っていますし、隠居のおじの邪魔をしないかぎり、勝手にどこへでも行き、したいことは自由に何でもしていました。<br />　それでもたった一つだけ、｜妙《みよう》な除外例がありました。屋根裏に年中鍵をかけた物置部屋が一つあって、私にかぎらず誰でもそこへはいることは絶対に許されないのです。子供らしい｜好《こう》｜奇《き》｜心《しん》から、いちど鍵穴からのぞいてみたことがありますが、なかは古トランクだの何かの包みだの、物置部屋相当のものがごたごたといれてあるだけのことでした。<br />　ある朝、一八八三年の三月のことですが、外国の切手をはった手紙が一通、｜食卓《しよくたく》のおじの席においてありました。おじの一家の買物はすべて｜現金払《げんきんばら》いですし、友達というものを一人ももたない人のことですから、これはじつに珍しいことだったのです。おじはそれをとりあげてみて、<br />『インドからだな。ポンディシェリの消印がある。はて何だろう？』といいながら急いで｜封《ふう》をきりますと、なかからかわいたオレンジの種が五つ、ぱらぱらとこぼれて｜皿《さら》の上をころがってゆきました。<br />　私はそれを見て笑いだしましたが、おじの顔つきに気がつくと、急にその笑いが引っこんでしまいました。｜唇《くちびる》はだらりと垂れ、両眼はとびだし、顔いろはまるで土のよう、｜震《ふる》える手にまだもったままの手紙を見つめていましたが、『Ｋ・Ｋ・Ｋだ！　ああ、とうとう思い知る日がきたのか！』としぼりだすような声で叫びました。<br />『どうしたんです。おじさん？』<br />『死だ』<br />　おじはひと言いったきり、立って自分の部屋へ引っこんでしまいました。のこされた私は、｜恐怖《きようふ》に胸をわなわなさせながら、｜封筒《ふうとう》を手にとってみますと、折って封じる耳の内がわの、ゴム｜糊《のり》のすぐ下のところに赤インキでＫの字が三つつづけて書いてあります。そのほかにはかわいたオレンジの種が五つあるだけで、何もはいっていません。何をおじはあんなに｜大騒《おおさわ》ぎして恐れるのでしょう。<br />　食事をやめて二階へあがってゆきますと、階段の｜途中《とちゆう》で、片手には屋根部屋のにちがいない古びたさびだらけの鍵をもち、片手には手さげ金庫のような形の｜真鍮《しんちゆう》の小箱をもって降りてくるおじとぱったりであいました。<br />『やるならやってみるがいい。あべこべにこっぴどい目にあわせてくれるから』おじは口ぎたなくそんなことを｜罵《ののし》っていましたが、私を見て、いいました。『おおジョンか。きょうはわしの部屋に火がいる。メアリーにそういってな。それからホーシャムの町へフォーダム弁護士を呼びにやっておくれ』<br />　私はいいつけられたとおりに運びましたが、弁護士が来ると、私も二階のおじの部屋へ呼ばれてゆきました。見ると暖炉にはあかあかと火が燃えていて、紙でも燃したらしい黒い灰がたくさんあり、そばに例の真鍮の箱が｜蓋《ふた》をとって、空っぽのまま置いてありました。ちらと見るとその箱の蓋にも、封筒にあったのとおなじに、Ｋの字が三つあるではありませんか。<br />『ジョンや、お前に｜頼《たの》むことがある。｜遺言状《ゆいごんじよう》の証人になっておくれ。わしはここの地所家屋とその権利義務のいっさいを、弟すなわちお前の父に｜遺《のこ》そうと思う。自然それはお前に伝わることになるのだが、無事に相続できたら、これに｜越《こ》したことはない。だがもしそれができないようだったら、悪いことは言わぬ、｜憎《にく》むべき敵ではあるけれど、｜潔《いさぎよ》くくれてやるがよい。こんな｜曖昧《あいまい》な財産を伝えるのは、お前にも気の毒ではあるけれど、事情がどう変ってゆくことか、わしにも判断がつかないのだ。どうかフォーダムさんのいう場所へ署名しておくれ』<br />　いわれるとおり証書に署名しますと、弁護士がそれをもって帰りました。この奇怪な事件に私はむろん強く心を動かされ、つくづく考えさせられました。いろいろと心を｜砕《くだ》いてみるのですが、わけがわかりません。ただ｜漠《ばく》｜然《ぜん》とした恐怖が心の｜隅《すみ》にのこるばかりでしたが、それも日のたつにつれてしだいにうすらぎ、かくべつ変ったことも起らないで、｜平凡《へいぼん》な日常生活がつづきました。<br />　けれどもおじは変りました。酒もこれまでよりも多くのむようになり、交際という交際はいっそう｜避《さ》けるようになりました。たいていはピンと｜錠《じよう》をかった自室にとじこもっているのですが、どうかすると酒乱のようになって家のそとまで｜躍《おど》りだし、ピストルを手に庭中を｜駆《か》けずりまわって、おれは何者も｜怖《おそ》れはしないぞ、羊かなんかじゃあるまいし、誰が来たって、たとい悪魔が来たって一間へ押しこめられるはずはないぞと、わめきたてるのでした。でも、そうした｜気《き》｜違《ちが》いめいた｜発《ほつ》｜作《さ》が去ると、あわてて部屋へ駆けこむなり、ピンと錠をかってしまう有様は、心の底に食いいった恐怖にすっかりうち挫がれた人でした。そういうときのおじの顔は、寒中でも、まるで水でもかぶったように、｜汗《あせ》でテラテラしていました。<br />　さて、もうすぐ終りですから、もうすこしのご｜辛抱《しんぼう》をお願いしますが、ある晩おじはいつもの酒乱状態で家をとびだしたきり帰ってきませんでした。さがしに出てみますと、庭の隅にある青みどろの｜浮《う》いた小さな池に、うつ｜伏《ぶ》せに浮いて死んでいました。暴行をうけた様子もなく、深さが二フィートしかない場所のことですから、｜陪審団《ばいしんだん》はおじの日ごろの変人ぶりを｜考慮《こうりよ》にいれて、自殺と評決を下しました。<br /><br />　けれどもおじが生前あれほど死を怖れていたのを知る私には、なかなか｜腑《ふ》に落ちないことが多く、｜過《あやま》って死んだのだという解釈で、ようやく自分を｜納得《なつとく》させました。でも事件はそれでおさまって、父がおじの家屋敷と、一万四千ポンドばかりの銀行預金とを相続いたしました」<br />「ちょっと待ってください。お話の内容はまれに見る異常なもののようですが、おじさんへ手紙のきた日と、｜亡《な》くなった日とをおききしておきましょう」ホームズが質問した。<br />「手紙のきたのは一八八三年三月十日で、死んだのはそれから七週間目、五月二日の晩です」<br />「ありがとう。どうぞ先を話してください」<br />「ホーシャムの財産を相続した父は、私の願いをいれて、例のしめきりの屋根部屋を綿密に調べてみました。あの真鍮の小箱はありましたがなかは空っぽです。蓋の内がわにはり紙をしてＫ・Ｋ・Ｋの文字を書き、その下に、『手紙、｜備《び》｜忘録《ぼうろく》、｜請取《うけとり》、｜帳簿《ちようぼ》』とあります。これでおじの焼きすてた書類の性質がほぼわかると思いました。そのほかこれといって重要なものはありませんが、ただおじのアメリカ生活と関係のある書類や手帳などがおびただしく散らかっていました。そのなかには南北戦争時代のもあって、当時おじがよく任務を果したことや、｜勇敢《ゆうかん》な軍人として名声を博したことのうかがわれるものもありました。また南部諸州｜再合併《さいがつぺい》時代のもので、主として政府関係のものもありましたが、おじは北部から｜派《は》｜遣《けん》された渡り政治屋たちに、手ひどく反対したものらしいのです。<br />　父がホーシャムに移り住むようになったのは、一八八四年のはじめで、翌年の一月までは何事もない生活が順調につづきました。一月もまだ四日の朝、いっしょに食卓についたとき、何に｜驚《おどろ》いてか父はとつぜん声をたてました。見ると片手にはいま開封したばかりの封筒を、もう一つの開いた｜掌《てのひら》のうえには｜乾《ひ》からびたオレンジの種を五つのせているのです。私がおじのことを話しますと、そんな｜馬鹿《ばか》げたことがと父はいつも笑っていましたが、いまおなじことが自分の身に起ってみると、さすがに驚き｜怪《あや》しんでいます。<br />『こ、これは、いったい何のことだろう？』<br />『Ｋ・Ｋ・Ｋですね』私は胸が苦しくなりました。<br />『なるほど、そうだな』父は封筒のなかをのぞきこんで、『ここにそう書いてある。だがＫ・Ｋ・Ｋのうえに書いてあるのは、こりゃ何じゃ？』<br /><br />『――書類を日時計のうえに置け』私は父の｜肩《かた》ごしにのぞきこんで読みました。<br />『何の書類だろう？　そして日時計というのは？』<br />『庭にある日時計のことでしょう、ほかにはありませんから。でも書類というのは、おじさんが焼きすてたあれですね、きっと』<br />『ふん！』父はむりにも強がっていいました。『｜今日《こんにち》この文明国に、こんな馬鹿げたことってあるものか！　手紙はいったいどこから出したんだ？』<br />『スコットランドのダンディー港からです』私は消印を見ていいました。<br />『｜愚《ぐ》にもつかぬ｜悪戯《いたずら》だ。書類だの日時計だのって、おれの知ったことか！　こんな馬鹿なことにいちいちかまっちゃいられない』<br />『警察へ届けたほうがよいと思います』<br />『骨を折って笑いものになるだけだ。よしておこう』<br />『じゃ私から届けさせてください』<br />『いかん。それはならぬ。こんな馬鹿げたことに、大騒ぎすることはない』<br />　父はたいそう｜頑《がん》｜固《こ》な男ですから、これ以上争ってもむだです。といって私は、何かよからぬ事のおこりそうな予感で｜憂鬱《ゆううつ》でした。<br />　手紙がきてから三日目に、父はふるくからの友人でポーツダウン山の｜要塞《ようさい》司令官になっているフリーボディ少佐を訪問に出かけました。父が家にいなければ、それだけ危険が遠ざかるような気がしましたから、私はこれを喜んでいました。しかしそれは大きな間違いだったのです。<br />　父が出かけてから二日目に、少佐から私にすぐ｜来《こ》いという電報がありました。父はあの地方いったいにある深い｜白《はく》｜堊《あ》｜坑《こう》の一つに｜墜落《ついらく》して、｜頭《ず》｜蓋骨《がいこつ》を砕いて人事不省になっていたのです。大急ぎで駆けつけましたが、父はついにいちども意識を回復することなく、息をひきとってしまいました。<br />　父は｜黄昏《たそがれ》にフェアラムからの帰り｜路《みち》、土地不案内のうえ、白堊坑には周囲に｜柵《さく》がしてないので、過って落ちたものらしく、陪審団は不慮の過失死という評決を与えました。私は自分の手で父の死と、その前後の事情を詳しく調べてみましたが、やはり他殺を思わせる事実は、何一つ発見できませんでした。暴行をうけた模様もなく、付近に疑わしい｜足跡《あしあと》もなく、持物もなくなってはいず、当時そのへんを見なれぬ者のうろつくのを見かけた人もありません。しかし私としては、そんなことで心の安まるどころか、かえって何かしら恐ろしいたくらみが父の身にはりめぐらされていたのにちがいないと、かたく信じていました。<br />　こうした｜不《ふ》｜吉《きつ》な事情のもとに、私はオープンショウ家を相続しました。あなたがたは、それならなぜ家屋敷を処分してしまわないかとおっしゃるかもしれませんが、私ども一家のこのわざわいは、おじの一身上におこった何かの事件に関係するもので、家なぞどこへうつしてみても防げるものではなく、どこまでもつきまとってくるにちがいないのです。<br />　父が｜非《ひ》｜業《ごう》の｜最《さい》｜期《ご》をとげたのは一八八五年の一月で、それから二年と八カ月が｜平穏《へいおん》にすぎました。そのあいだ私はホーシャムで幸福な生活を送り、このぶんならばこののろいもオープンショウ家を去って、わざわいは父の代だけですむのだろうと思うようになりました。けれどもそれは｜早《はや》｜合《が》｜点《てん》にすぎた楽観だったのです。きのうの朝、かつて父の身にふりかかったのとおなじ形をとって、あののろいが私の身に｜襲《おそ》いかかってきたのです」<br />　こういって青年はチョッキのポケットから｜皺《しわ》だらけの封筒をとりだし、テーブルに向って、五個の乾からびたオレンジの種を｜振《ふる》いおとしてみせた。<br /><br />「これがその封筒です。消印はロンドンで、東区局になっています。なかには父のときとまったくおなじに、Ｋ・Ｋ・Ｋ、書類を日時計のうえに置けの文句が書いてあります」<br />「それであなたはどうしました？」ホームズが尋ねた。<br />「何もしません」<br />「何もしない？」<br />「じつを申すと」と彼は白く細い手に顔をうずめて「私は途方にくれたのです。まるで、にょろにょろと｜蛇《へび》に追いつめられた｜蛙《かえる》みたいに、身をすくめて、食べられるのを待っているような気持です。無情きわまる｜悪《あく》｜魔《ま》にきゅっとつかまれて、｜抵抗《ていこう》する力もなく、どのような先見も、どのような予防も、のがれる効果はないように思われるのです」<br />「だめ、だめ、しっかりしなきゃ、ほんとにやられてしまいますぞ」ホームズが力づけた。<br />「気力をお出しなさい。それしか助かる｜途《みち》はありません。いまはいたずらに絶望してばかりいるときではありませんぞ」<br />「私は警察へも行きました」<br />「え？」<br />「警察です。でも先方は、話を聞いてニヤニヤ笑っているばかりなんです。なんでも警部は、手紙はすべて単なる悪戯で、父やおじの変死と関係ありと見るべきでなく、陪審団も認めたとおり、二人はまったく過って死んだものと思っている様子です」<br />「信ずべからざる低能さだ！」ホームズは｜拳《こぶし》を｜空《くう》に｜振《ふ》りながら｜叫《さけ》んだ。<br />「でも｜巡査《じゆんさ》を一人｜派《は》｜遣《けん》することを承知してくれました」<br />「今晩もいっしょに来ているのですか？」<br />「いいえ、巡査にはただ私の家に行っていろという命令なものですから」<br />　ホームズはふたたび｜腕《うで》を振りまわした。<br />「何だって私のところへ来たんです？　いやちがった。何だってもっと早く来なかったんです？」<br />「知らなかったのです。じつはきょう、プレンダーガスト｜少佐《しようさ》に事情を｜訴《うつた》えたら、あなたに相談しろといわれたものですから」<br />「手紙がきてからもう二日経過しています。もっとまえに行動をおこさなければいけなかったんだ。もうほかに材料はないのでしょうね、役にたちそうな参考資料は？」<br />「一つあります」ジョン・オープンショウ青年は、上着のポケットをさぐって、色のあせた青い紙を一枚とりだし、テーブルのうえに置いた。「おじが書類を焼いた日に、灰のなかに焼けのこっていた小さな余白が、これとおなじ｜特殊《とくしゆ》な色だったのを覚えています。この一枚はやはりおじの部屋に落ちていたのを拾ったものですが、焼きすてるときこれ一枚だけぬけ落ちて、｜焼却《しようきやく》を｜免《まぬが》れたのではないかと思います。『種』という文字が見えているだけのことで、格別役にたつものとも思えませんけれど、お目にかけます。筆跡は間違いなくおじのものですから、私的日記の一｜片《ぺん》だと思っています」<br />　ホームズがランプの位置をうつしたので、私ものぞきこんだが、その紙は一｜端《たん》がギザギザになっていて、帳面から一枚だけはがれたものとわかった。はじめに一八六九年三月とあって、それへつづいてつぎのとおり｜謎《なぞ》のような文句が書いてあった。<br />　<br />　四　日　ハドスン来る。例のごとき主張。<br />　七　日　マッコーレー、パラモアおよび｜聖《セント》<br />　　　　　オーガスチンのジョン・スウェイ<br />　　　　　ンに種を送る。<br />　九　日　マッコーレー去る。<br />　十　日　ジョン・スウェイン去る。<br />　十二日　パラモアを訪問。｜万《ばん》｜事《じ》よし。<br />　<br />「ありがとう」ホームズは紙をたたんで返しながら、「いまは一刻の｜猶《ゆう》｜予《よ》も許されません。お話の内容をここで論じている｜暇《ひま》もないのです。あなたはこれからすぐに帰って、行動をおこさなければなりません」<br />「何をするのですか？」<br />「することは一つしかありません。すぐ実行するのですよ。まずこの紙をお話にあった真鍮の箱にいれるのです。そして別に手紙で、書類は全部おじさんが焼いてしまったから、これ一枚しかのこっていないという意味を書いて、いっしょにいれておくのです。相手がたが信じてくれるように、｜上手《じようず》に書かねばなりません。そして用意ができたらその箱を、指定どおり日時計のうえにおくのです。おわかりですか？」<br />「よくわかりました」<br />「｜復讐《ふくしゆう》を｜企図《きと》したり、そのほかいまは何も考えてはなりません。｜仇《あだ》は法律の力で｜討《う》てる日もありましょうが、いまはただ｜網《あみ》をこしらえるのがだいいちです。向うは一歩早く、もうちゃんと張りめぐらしているのですからね。だいいちに考えなければならないのは、あなたの身に｜迫《せま》っている危険をとり除くことです。謎を解いたり、悪いやつを｜懲《こ》らすのは二のつぎです」<br />「ありがとうございます」青年は立って、｜外《がい》｜套《とう》に手をとおしながらいった。「おかげで新しい希望がわきおこりました。再生の思いです。たしかにご注意のとおりにいたしましょう」<br />「一刻も猶予はなりませんよ。そして何よりもまず、身辺に十分気をおつけなさい。あなたの身に迫っている危険は、けっして｜漠然《ばくぜん》としたいい加減のものじゃないのですからね。帰りは、どういうふうにお帰りですか？」<br />「ウォータールー駅から汽車で帰ります」<br />「まだ九時まえです。往来は相当人通りもあるでしょうから、まず｜大丈夫《だいじようぶ》でしょう。しかし気をつけるにこしたことはありません」<br />「武器をもっています」<br />「それは結構です。あすになれば私が行動をおこします」<br />「あすホーシャムへおいでくださるのですか？」<br />「いいえ、この事件はロンドンに秘密が｜潜《ひそ》んでいるのです。私はロンドンにいて、それをさがしだします」<br />「では一両日のうち、日時計のうえに置く手紙の結果をお知らせかたがた、私のほうからお訪ねいたします。それまでは何事も、あなたのご注意のとおりにいたします」といってジョン・オープンショウは｜握手《あくしゆ》して帰っていった。<br />　そとは｜依《い》｜然《ぜん》として風がうなり、雨は窓を打ってしぶきをあげている。この｜怪《かい》｜奇《き》をきわめた物語は、｜疾風《はやて》に｜吹《ふ》きよせられた一本の海草のように、｜荒《あ》れ｜狂《くる》う｜嵐《あらし》のまっただなかから、私たちのところへとびこんできて、また吹き去られたのではないかと、そんな気持がした。<br />　ホームズはしばらくうつ向いたまま、赤く燃えさかる火を｜黙然《もくねん》とながめていたが、やがてパイプに火をつけると、｜椅子《いす》に背をよせて、｜天井《てんじよう》へ｜紫《むらさき》の｜煙《けむり》の輪を吹きあげながら、その｜行《ゆく》｜方《え》を見おくっていた。<br />「ねえワトスン君、いままでとり｜扱《あつか》った事件のなかでも、これほど｜夢《む》｜幻的《げんてき》なのはなかったねえ」やっと｜彼《かれ》は口をきいた。<br /><br />「まア『四つの署名』以来の事件だね」<br />「そうさ、まアあれ以来かね。だがこのジョン・オープンショウという青年は、あのときのショルトー少佐以上の危地に立っていると思うよ」<br />「というと、その危地がどんなものだか、何か見当をつけているのかい？」<br />「危険の性質については、疑いの余地がないよ」<br />「というと何だい？　このＫ・Ｋ・Ｋというのはいったい何者だろう？　何だってあの一家ばかりねらうのだろう？」<br />　ホームズは｜両眼《りようめ》をつぶり、｜両肘《りようひじ》を椅子の腕に｜託《たく》して、両手の指先をつき合せながらいった。<br />｜「《＊》いったい理想的な推理家というものは【訳注　『緋色の研究』参照】、一つの事実をちゃんと提示された場合、その事実から、そこにいたるまでのすべてのできごとを、のこる｜隈《くま》なく推知するばかりでなく、その事実につづいておこるべき、すべての結果をもよく｜演繹《えんえき》するものだ。ちょうど｜比《ひ》｜較《かく》｜解《かい》｜剖学《ぼうがく》のキュヴィエがただ一片の骨から、深い研究の結果その動物の完全な姿をえがきだしてみせたと同じに、ある一連の事件のうちの一事実を十分に究明しえた観察者は、その事実の前後につながるあらゆる事実を、正確に述べられなければ｜嘘《うそ》だ。<br />　われわれはまだ現実に結果をつかんでいないが、それは推理によってはじめて得られるものだ。みながあらゆる｜知恵《ちえ》をしぼって解こうとしながら失敗したような問題でも、｜書斎《しよさい》にとじこもったままで、推理だけで解くこともできるのだ。しかしこの｜技《ぎ》｜巧《こう》の｜極致《きよくち》を｜発《はつ》｜揮《き》するには、推理家は知りえたあらゆる事実を余すところなく利用しうる力がなければならない。これは、容易に君にもわかることだろうが、あらゆる知識の必要を意味するのだ。あらゆる知識をもつということは、自由教育が発達し、百科辞典の｜普及《ふきゆう》した今日といえども、いささか困難なことに属する。とはいっても、自分の仕事のうえに有用と思われる｜範《はん》｜囲《い》で、あらゆる知識を取得することは、必ずしも不可能事ではない。｜僕《ぼく》はそれの実現に努力してきたのだ。僕の｜記《き》｜憶《おく》に誤りがなければ、君はいつか、僕たちの知りあった当初だったが、僕の知識の限界をうまくいい現わしたことがあるね」<br />「そうそう、あれは｜珍《ちん》｜記《き》｜録《ろく》だったっけ」私は笑って答えた。「たしか｜哲学《てつがく》、天文学、政治の知識は｜皆《かい》｜無《む》で、植物学は不定、地質学はロンドンを中心として五十マイル以内の地ならば、服についたどろを見てその地域を｜指《し》｜摘《てき》しうるほど｜該博《がいはく》、化学は｜偏《へん》｜倚《い》、解剖学は系統的でなく、｜煽情《せんじよう》文学と犯罪記録には特異の知識を有し、ヴァイオリンに｜巧《たく》みで｜拳闘《けんとう》をよくし、｜剣客《けんきやく》にして法律に通じ、コカインとタバコの中毒者というのがだいたいの内容だったと思う」<br />　最後の一｜項《こう》にホームズはニヤリと笑った。<br />「あのときもいったとおり、人間の脳の物置は｜狭《せま》いのだから、使いそうな道具類だけちゃんとしまっておけばたくさんなのだ。ほかのものはみんな書斎のがらくた部屋に｜押《お》しこんでおいて、必要のあるたびに出して見ればよい。そこで今晩もちこまれた問題だが、こんな問題にはわれわれのもつ全知識を｜傾《かたむ》けてぶつかる必要がある。ちょっとその手近の｜棚《たな》から、アメリカ百科辞典のＫの部をとってくれたまえ。ありがとう。さ、それでは｜情況《じようきよう》を見きわめたうえで、どういうことが推断されるかやってみよう。<br />　まずだいいちに、オープンショウ大佐がアメリカを去ったについては、何かよほど重大な理由があったという強い仮定から出発してみよう。あの年配になると、人はなかなか生活を変えたがらないものだ。それが気候のよいフロリダの地をすてて、すすんでイングランド州の｜寂《さび》しい片いなかの生活にはいるというはずがない。一方、帰ってきてからの極端な｜孤《こ》｜独《どく》生活をみると、彼が｜何人《なんびと》かまたは何物かにたいしておそれをいだいていたことが暗示される。それらの点からして、何人かまたは何物かにたいする｜恐怖《きようふ》が、大佐をアメリカから追いかえしたのだという実働仮定をおくことにしてよかろう。その恐怖が何であったか、それは大佐およびその相続者がうけとった｜恐《おそ》ろしい手紙によって推断するほかはない。君は三通の手紙の消印を覚えているかい？」<br />「最初のは｜仏領《ふつりよう》インドのポンディシェリ、つぎはスコットランドのダンディーで、最後はロンドンの消印だった」<br />「ロンドンの東区局だぜ。そこから何か推論できないかい？」<br />「三つとも船着場だね。差出人は船に乗ってるやつだ」<br />「うまい！　それで｜手《て》｜掛《がか》りが一つできたじゃないか。差出人が船に乗っているという可能性はきわめて強い。つぎに、別の方面から考えてみるのに、最初の場合は、｜脅迫状《きようはくじよう》がきてから実行するまでに七週間を要している。第二の場合はそのあいだがわずか三、四日しかない。ここに何か暗示はないかしら？」<br />「来るのに｜距《きよ》｜離《り》が遠いからだろう」<br />「手紙だって遠距離からきているんだぜ」<br />「そうなると僕にはわからないね」<br />「すくなくとも、脅迫者の乗っている船が｜帆《はん》｜船《せん》だという推定が下される。警告というか合図というか、彼らは、いつも使命をおびて出発するまえに、手紙を出しているものと思われる。ダンディーから警告を発した場合は、実行がすぐそれにつづいて行われている。ポンディシェリからだって、もし汽船で来れば、ほとんど手紙と前後して着いているはずだが、事実は手紙より七週間も｜遅《おく》れている。この七週間というものは、手紙をつんできた郵船と、差出人の乗ってきた帆船との速力の差を示しているものだと思う」<br />「ありうることだね」<br />「ありうる以上だよ。おそらくそれにちがいない。だからこんどの場合が、事情きわめて｜切迫《せつぱく》しているのがわかるだろう？　そのつもりで僕はジョン・オープンショウに注意しておいたんだよ。あの｜惨劇《さんげき》はつねに差出人が発信地からやってこられるだけの時日をおいて、その時日のつきたときに行われている。しかるにこんどのはロンドンで｜投函《とうかん》されているのだから、一刻の猶予といえども許されないのだ」<br />「かわいそうに！　この非道な迫害はいったい何を意味するのだろう？」<br />「オープンショウ大佐のもっていた書類が、この帆船に乗っているやつにとって、死活を制するほど大切なものなのにちがいない。しかも相手は必ず一人ではないと思う。一人では｜検《けん》｜視《し》｜陪審員《ばいしんいん》をまんまとだましおおせたあんなうまい殺しかたが、二度までもやれるもんじゃない。策略のある｜果《か》｜敢《かん》なやつらが三、四人はいるにちがいない。そしてたとい書類が何人の手中にあろうとも、必ずそれを｜奪回《だつかい》せずにはおかぬ決意をかためているのだ。この意味からＫ・Ｋ・Ｋというのは個人の｜頭《かしら》｜文字《もじ》ではなくて、ある団体の記号だということがわかる」<br />「何の団体だろう？」<br />「君はまだ」とホームズはからだを乗りだして声をひそめていった。「キュー・クラックス・クランのことはまだ聞いたことがないのかい？」<br />「知らないねえ」<br />　ホームズは｜膝《ひざ》のうえで百科辞典をくっていたが、「ここにあった」とそれを読みあげた。<br />　<br /><br /><br />　キュー・クラックス・クラン――｜小銃《しようじゆう》の｜撃鉄《げきてつ》を｜掛《か》けるときの音と｜妙《みよう》に似通ったところからつけられた名で、この恐怖すべき秘密結社は南北戦争終結後、南部連邦のもと軍人であった一部の人々により組織され、たちまち全国にひろがり各地に支社をおくにいたった。とくにテネシー、ルイジアナ、南北カロライナ、ジョージア、フロリダの各州に｜著《いちじる》しい。その勢力は政治目的、主として黒人有権者への｜威《い》｜嚇《かく》、ならびに結社の政見に反対する者を殺害し、または国外へ｜逐放《ちくほう》するために用いられた。結社が暴行を加えるまえには目標の人物に対し、｜奇《き》｜抜《ばつ》ではあるが一般に知られた方法による警告――ある地方では｜樫《かし》の｜小《こ》｜枝《えだ》、またある地方ではメロンやオレンジの種を使用する――を送りつけるのを｜常《つね》とする。この警告を受けた者は、それまでの自己の主義を捨てることを公然と｜誓約《せいやく》するか、さもなければ国外へ去るか、二つのうち一つを選ばねばならず、この警告に従わない者があれば、かならず死を招く結果になり、しかもその方法は奇怪でまったく予測できないのが常である。結社の組織はきわめて完備し、その手段はすこぶる巧妙であるから、警告に従わずに死をまぬがれた者はいまだかつて記録にない。また暴行についてもその加害者が判明した例もない。このようにして合衆国政府ならびに南部諸州の善良な社会の人々の努力も｜空《むな》しく、数年にわたり結社は暴威をふるったが、一八六九年にいたり｜突如《とつじよ》｜瓦《が》｜解《かい》するにいたった。ただしその後も同種の事件は｜間歇的《かんけつてき》に発生している。<br /><br /><br />　<br />「これでみると」ホームズは厚い本を下においていった。「この結社がとつぜん｜崩壊《ほうかい》したのと、オープンショウ大佐がアメリカから書類をもって帰ってきたのと、年代が｜符《ふ》｜合《ごう》しているのに気がつくだろう？　この二つの事実は、たがいに原因と結果をなすものと考えてもよかろう。してみれば大佐およびその一族が、｜執念《しゆうねん》ぶかくつけねらわれるのに何の不思議もあるまい。この｜帳簿《ちようぼ》や日記が南部諸州の一部有力者に｜累《るい》をおよぼすものであることも、これをとりもどすまでは｜枕《まくら》を高くして｜眠《ねむ》られぬ人が数多く存在することも、これでよくわかるだろう？」<br />「するとさっき見たあの一ページは……」<br />「いかにもそれらしかったじゃないか。ＡＢＣの三人に種を送った――と書いてあったようだが、つまり結社が警告を発したのを意味するんだよ。ＡもＢも順次『去る』とあるのは、国外に去ったのを意味するのだろう。第三のＣは『訪問』をうけているが、これはＣが例の惨劇の｜犠《ぎ》｜牲《せい》になったことらしい。<br />　というわけで、この不思議な事件もやや｜輪《りん》｜郭《かく》が明らかになってきたと思うのだが、だからあのジョン・オープンショウを助ける｜唯一《ゆいいつ》の｜途《みち》は、僕の教えてやった方法によるしかないと信じるんだ。で今晩のところはこれ以上することもないし、話すこともないようだから、ちょっとそのヴァイオリンをとってくれないか。三十分ばかり、このいやな天気や、天気よりもっとみじめな｜同胞《どうほう》たちの運命を忘れることにしよう」<br />　<br />　翌朝は好天気だった。太陽は大ロンドンの空にかかる｜薄絹《うすぎぬ》をとおして、なごやかに｜輝《かがや》いている。起きてみるとホームズはもう朝食のテーブルについていた。<br />「先に失敬しているよ。きょうはオープンショウ事件で、とても｜忙《いそが》しいと思ったもんだからね」<br />「どういうふうにやってゆくつもりだい？」<br />「最初の調査の結果しだいで、どうなってゆくかわからないが、結局はホーシャムまで行かなきゃなるまいかとも思っている」<br />「最初にそっちに行くのじゃないのかい？」<br />「いや、まず｜下町《シテイ》からはじめるつもりだ。ちょっと｜呼鈴《よびりん》を鳴らしてくれないか、女中が君のコーヒーをもってくるから」<br />　待っているあいだにと、｜卓上《たくじよう》に置いたままの新聞を手にとって、ひろげてみた私は、ふと目についた見出しにたちまち心がひやりとした。<br />「おいホームズ君、もう間にあわないぜ！」<br />「えッ！」ホームズは静かにコーヒー｜茶碗《ぢやわん》をおいて、「そんなことではないかと思っていたんだ。どんなふうにやられている？」と言葉はおちついているが、内心はかなり｜動揺《どうよう》しているらしい。<br />「オープンショウという名と『ウォータールー橋の｜惨劇《さんげき》』という見出しが目についたばかりだが、ひとつ記事を読んでみよう」<br />　<br /><br /><br />　昨夜九時から十時までのあいだに、Ｈ署のクック｜巡査《じゆんさ》はウォータールー橋付近で服務中、救いを求める悲鳴と水音を耳にしたが、何しろ真の暗夜のうえあの嵐のなかとて、二、三通行人の協力もあったけれど救助はとうてい不可能なので、ただちに警報を発し水上署の助力を得て結局死体は発見した。ポケットから出た｜封筒《ふうとう》によりホーシャム付近のジョン・オープンショウという青年｜紳《しん》｜士《し》と判明したが、たぶんウォータールー駅発終列車に乗るつもりで急ぐうち、あまりの暗さに道にまよい、｜河蒸汽《かわじようき》乗り場から｜墜落《ついらく》したものと推定される。死体になんら暴行の｜痕跡《こんせき》が残っていないところからみて、過失死であるのは｜間《ま》｜違《ちが》いないであろうが、それにつけてもこのような危険な乗船場の存在することに関して当局の一考をうながさざるをえない。<br /><br /><br />　<br />　二人ともしばらくは口がきけなかった。ホームズのしょげかたは、私もかつて見たことがないほどであった。<br />「僕は｜誇《ほこ》りを傷つけられたよ」しばらくたって彼がいった。「むろん、つまらない感情にはちがいないが、僕は自尊心を傷つけられたよ。こうなったら僕には事件じゃなくて、個人的な問題だ。命のあるかぎり必ずこのギャングを｜押《おさ》えてやる。せっかく僕を｜頼《たよ》ってきたものを、むざむざと死なすために帰してやるなんて！」<br />　こういって彼はぬっと立ちあがり、制しきれぬ興奮のうちに、青じろい顔の｜頬《ほお》だけ紅潮させ、細くてながい指を神経質に｜握《にぎ》ったり開いたりしながら、部屋のなかを歩きまわった。<br />「よほど悪知恵にたけたやつらにちがいない。どうしてそんな場所へ｜誘《おび》きだしたのだろう？河岸はここから駅への｜路《みち》すじではないじゃないか。いくらゆうべのような晩でも、橋の上は人通りがあって目的にそわなかったからだが、よし、ワトスン君、どっちが最後の勝利をうるか、見ていてくれ！　僕は出かけるよ」<br />「警察へかい？」<br />「いいや、警察は僕自身だ。警察なんてこっちが網をはってやれば、｜蠅《はえ》くらいつかまえられるだろうが、さもなきゃ何ができるものか！」<br />　<br />　その日私は本職の医業のほうが忙しくて、ベーカー街へ帰ってきたのはだいぶ｜遅《おそ》かったが、ホームズはまだ帰っていなかった。十時ちかくなって、｜疲《つか》れた様子で帰ってきた。帰るとすぐ戸棚のまえへ行って、パンをちぎってほおばり、ガツガツしながら水をのんで、グイグイ胃の｜腑《ふ》へ流しこんだ。<br />「そんなに腹がすいたのかい？」<br />「｜飢《うえ》｜死《じ》にそうだ。食べるのを忘れていたんだ。朝から何も食べなかった」<br />「なんにも？」<br />「そうさ。そんなことを思いだす｜暇《ひま》もなかった」<br />「そしてどうだった。結果は？」<br />「うむ」<br />「手掛りはあったかい？」<br />「ちゃんとこの手のなかに、やつらを握ってしまった。オープンショウ青年の｜仇《あだ》をとるのも、そうながい先じゃない。ねえワトスン君、こんどは逆にこっちから、あの｜不《ふ》｜吉《きつ》なレッテルをはりつけてやろうじゃないか。考えても｜愉《ゆ》｜快《かい》だよ」<br />「どうするんだい？」<br />　ホームズは戸棚からオレンジを一つ出して細かく｜裂《さ》き、種をテーブルの上にしぼりだした。そのなかから五つだけをとって封筒にいれ、｜蓋《ふた》の内がわに「｜Ｊ《＊》・ＯのためＳ・Ｈ【訳注　ジョン・オープンショウのためシャーロック・ホームズ】」と書いた。封をして表には「米国ジョージア州サヴァナ港、三檣帆船ローン・スター号船長ジェームズ・カルフーン｜殿《どの》」とあて名を書いた。<br />「こいつが船の入港を待っているわけだ」ホームズはフフと笑っていった。「この手紙を見たら、その晩船長はとても眠れまい。オープンショウ｜大《たい》｜佐《さ》が味わったのとおなじ必然の｜凶《わる》い予告におののくことだろう」<br />「カルフーン船長とは何者なんだい？」<br />「ギャングの首領さ。ほかのやつらもやっつけてやるが、まず首領からだ」<br />「どうやって｜突《つ》きとめたんだい？」<br />　ホームズはポケットから、日付と名前をいっぱい書きつけた大きな｜紙《し》｜片《へん》をとりだしていった。<br />「僕は一日がかりでロイド｜船舶名《せんぱくめい》｜簿《ぼ》と、古い新聞のとじこみをあさり、一八八三年の一月から二月にかけてポンディシェリへ寄港したあらゆる船の、その後の行動を調べあげた。この｜二月《ふたつき》のあいだにポンディシェリへ寄港したそれらしい大きさの船は三十六｜隻《せき》あるが、そのなかでローン・スター号という名がすぐ僕の目についた。ロンドンから来たとはあるが、その名はアメリカのある州に｜与《あた》えられた別名だからね」<br />「たしかテキサスだろう？」<br />「どこだかいまでも知らない。どこだっていいんだ。ただ船は間違いなくアメリカ系だと思った」<br />「それで？」<br />「それでダンディー港を調べてみると、一八八五年の一月に寄港しているとわかったので、いままでの疑念が確信になった。そこでこんどは、いま現にロンドン港に｜停泊中《ていはくちゆう》の船を調べてみると……」<br />「あったかい？」<br />「ローン・スター号は先週入港したというから、さっそくアルバート｜波止場《はとば》へ出かけてみると、今朝の満潮にサヴァナ港へ向けて帰航したことがわかった。すぐにグレーヴセンドへ電報で追っかけてみたが、すこしまえに通過したという返事があった。風が東風だから、いまごろはグッドウィンの｜州《す》もすぎて、ワイト島のちかくを航行していることだろう」<br />「で君はどうする？」<br />「もうちゃんと手はまわっているんだ。船長のほか二人の航海士だけが｜生《き》っ｜粋《すい》のアメリカ生れで、そのほかの乗組員はすべてフィンランド人とドイツ人だというし、この三人はそろってゆうべロンドンで上陸している。荷物の積みこみをした｜沖仲《おきなか》｜仕《し》から聞いたのだが、船がサヴァナへ着くころには、この手紙が速い郵便船で先に届いて待っているだろうし、そのうえ海底電信で、これこれの三人は当地で殺人犯人として｜厳重《げんじゆう》手配中のものと、先方の警察へ｜逮《たい》｜捕《ほ》を｜依《い》｜頼《らい》してある」<br />　だが人間のたてた計画には、どんなに｜万全《ばんぜん》を期しても、必ずどこかに｜欠陥《けつかん》があるもので、ジョン・オープンショウ殺しの犯人一味は、永久にオレンジの種はうけとらなかったのである。もしうけとっていれば、｜彼《かれ》らに｜劣《おと》らぬ｜奸《かん》｜知《ち》をもつ果敢な人物があって、彼らを｜追及《ついきゆう》していることを思い知らせることができたであろうに。<br />　あの年は｜彼《ひ》｜岸嵐《がんあらし》がとくにいつまでも｜猛《もう》｜威《い》をふるっていた。私たちは首をながくして、サヴァナ港からローン・スター号の消息のくるのを待ちわびていたのだが、それはついに聞かれずじまいであった。その代りに耳にしたのは、大西洋のはるかまん中で、うち｜砕《くだ》かれた｜船《せん》｜尾《び》｜材《ざい》に「Ｌ・Ｓ」と｜刻《ほ》りつけたものが、波間にただよっているのを見たものがあるという情報であった。ローン・スター号の運命については、永久にこれ以上わかることはないであろう。<br />―一八九一年一一月『ストランド』誌発表―</span> ]]>
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<dc:creator>柳ちぁん</dc:creator>
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<title>ボヘミアの醜聞</title>
<description> 　シャーロック・ホームズは｜彼女《かのじよ》のことをいつでも「あの｜女《ひと》」とだけいう。ほかの名で呼ぶのを、ついぞ聞いたことがない。｜彼《かれ》の視野のなかでは、彼女が女性の全体を｜覆《おお》い｜隠《かく》しているから、女といえば、すぐに彼女を思いだすことにもなるのだ。とはいっても「あの女」すなわちアイリーン・アドラーにたいして彼が｜恋愛《れんあい》めいた感情をいだいているというのではない。あ
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<![CDATA[ <span style="font-size:x-small;">　シャーロック・ホームズは｜彼女《かのじよ》のことをいつでも「あの｜女《ひと》」とだけいう。ほかの名で呼ぶのを、ついぞ聞いたことがない。｜彼《かれ》の視野のなかでは、彼女が女性の全体を｜覆《おお》い｜隠《かく》しているから、女といえば、すぐに彼女を思いだすことにもなるのだ。とはいっても「あの女」すなわちアイリーン・アドラーにたいして彼が｜恋愛《れんあい》めいた感情をいだいているというのではない。あらゆる｜情緒《じようちよ》、ことに愛情のごときは、冷静で的確、｜驚《おどろ》くばかり｜均斉《きんせい》のとれた彼の心性と、およそ｜相《あい》｜容《い》れぬものなのだ。思うに彼は、推理観察をやらせては、世にたぐいなき完全な機械だけれど、こと恋愛となると、まるきり手も足もでない不器用な男だった。やさしい感情上の問題なぞ、口にしたこともない。たまにいうかと思えば、必ずひやかしか｜罵《ば》｜倒《とう》まじりだった。やさしい感情、それははたから見てもまことに結構なもので、とりわけ人の意志や｜行《こう》｜為《い》を覆う｜帷《とばり》を｜払《はら》いのけてくれる効果は大きい。けれども、訓練のゆき届いた推理家にとって、細心に｜整頓《せいとん》されたデリケートな心境のなかに、そうした｜闖入者《ちんにゆうしや》を許すのは、まぎれをおこさせるものであり、その精神的成果のうえに、｜一抹《いちまつ》の疑念を投ずることにもなるのである。｜鋭敏《えいびん》な機械のなかにはいった砂一｜粒《つぶ》、彼のもつ強力な拡大鏡に生じた一個の｜亀《き》｜裂《れつ》といえども、彼のもつような天性のなかに、｜激烈《げきれつ》な感情の｜忍《しの》びいった場合ほどには、｜面倒《めんどう》な｜妨害《ぼうがい》となることはあるまい。そのホームズにしてなお、忘れがたき女性が一人だけあったのだ。その女性こそは、かのいかがわしき｜記《き》｜憶《おく》にのこる故アイリーン・アドラーその人である。<br />　近ごろ私は、ホームズにはさっぱり会わなかった。｜私《＊》の｜結婚《けつこん》【訳注　『四つの署名』参照】が、二人のあいだを遠ざけたのだ。私としてこのうえない幸福、はじめて一家の主人となった者が、身辺に発見する家庭中心の｜団欒《だんらん》気分は、私の心を｜奪《うば》いさるに十分であった。一方ホームズのほうは、例の世事に｜無頓着《むとんじやく》な気質から、どんな形式での社交をも｜嫌《けん》｜悪《お》して、独りベーカー街の｜古《ふる》｜巣《す》にふみとどまって古本のなかに｜埋《うず》まり、コカインと功名心――｜麻《ま》｜薬《やく》による｜夢《ゆめ》み｜心《ごこ》｜地《ち》の日と、彼一流の｜鋭《するど》い性格からくるさかんな精力に燃えたつ日の連続を、｜交《こう》｜互《ご》にくりかえしていたのである。<br />　彼はあいかわらず犯罪の探究に余念なく、あの｜卓絶《たくぜつ》した才能と、驚くべき観察力とを｜縦《じゆう》｜横《おう》に｜駆使《くし》して｜手《て》｜掛《がか》りを｜追及《ついきゆう》し、｜謎《なぞ》を解き、本職の警察が絶望とみて手をひいた多くの事件と、とっ組んでいた。そのあいだ、彼の業績については、おぼろげながら耳にしたこともちょいちょいある。たとえばトレポフ殺人事件でオデッサへ招かれていったこと、トリンコマリーのアトキンスン兄弟の｜奇《き》｜怪《かい》きわまる｜惨劇《さんげき》を解決したこと、さてはオランダの王室から｜頼《たの》まれたむずかしい使命を、いともみごとに果したことなどである。だが、そうした彼の｜活躍《かつやく》の模様は、ただ日々の新聞で｜一般《いつぱん》の読者とおなじに知るというだけのことで、旧友でもあり、一時は仕事の相棒でさえあった男だが、それ以上にはほとんど私も知るところがなかったのである。<br />　ある夜――｜詳《くわ》しくいえば一八八八年三月二十日のことだが――私は｜往診《おうしん》からの帰り｜途《みち》（というのは、またもとの開業医に復帰していたので）ベーカー街を通りあわせ、求婚時代のあの楽しかった思い出や、『｜緋《ひ》｜色《いろ》の研究』事件の｜陰惨《いんさん》なできごとなどと関連して、おそらく｜生涯《しようがい》忘れられないだろうあの戸口を｜目《ま》のあたりにして、急にホームズの顔が見たくなった。あの｜非《ひ》｜凡《ぼん》な才能を近ごろどんなふうに駆使していることか、様子知りたさに矢も｜楯《たて》もたまらなくなった。<br />　見あげれば、彼の部屋はあかあかとあかりが｜輝《かがや》いている。そればかりか、ほんのちょっと見あげているあいだにも、背のたかいやせた彼の｜影法《かげぼう》｜師《し》が、二度までブラインドにちらついた。頭を深く垂れ、手をうしろに組んで、もの思いにふけりながら、せかせかと部屋のなかを歩きまわっているのだ。彼の気持や｜習《しゆう》｜癖《へき》をよくのみこんでいる私には、その態度なり挙動なりで、何もかもがよくわかる。彼はまた事件を手がけているのだ！　コカインの人為的な夢み心地からさめて、新しい問題に熱中しているのだ。私はベルを鳴らした。そして、以前は私と共有だった例の部屋へととおされたのである。<br />　彼の態度は、そっけないほど｜淡々《たんたん》としていた。｜珍《めずら》しくもないことだが、それでも私の訪問は喜んでくれたと思う。ろくに口をきかず、しかしやさしい｜眼《め》つきで、そこの｜肘掛《ひじかけ》｜椅子《いす》にかけろと手で示し、葉巻の｜箱《はこ》を投げてよこし、部屋の｜隅《すみ》のウイスキーやソーダ水のサイフォンのある場所を指さした。それから｜暖《だん》｜炉《ろ》のまえにつっ立って、例の｜妙《みよう》に内省的な態度で、じっと私を見つめていった。<br />「君には結婚が合っているんだ、と見える。このまえから見ると、七ポンド半は｜肥《ふと》ったぜ」<br />「七ポンドさ」<br />「フーン、もうすこしよく考えてからいうのだった。ほんのちっとだけね。それで、また開業したらしいね。｜僕《ぼく》はそんな意向のあることなど聞かなかったぜ」<br />「聞きもしないで、どうしてそんなことがわかるんだい？」<br />「わかるさ。推理でわかる。近ごろ君は雨にあってズブ｜濡《ぬ》れになったし、君のうちにはひどくそそっかしい女中がいるなんてこともわかるが、どうだ？」<br />「おやおや、君にあっちゃ｜敵《かな》わないよ。これで二、三世紀もまえに生れていたら、君は｜間《ま》｜違《ちが》いなく｜火《ひ》｜炙《あぶ》りになってるぜ。なるほど僕は、この木曜日にいなか道を歩いてて、たしかにズブ濡れになって帰ってきたが、その服は着かえているんだから、どうしてそんな推理が下せるのだか、見当がつかない。女中のメアリー・ジェーンなら、こいつは何とも始末におえない女でね、たまりかねて家内が、お払いばこの予告を申しわたしたが、それにしても、どうしてそんなことまでわかるんだろう？」<br />　ホームズは独りで｜悦《えつ》にいって、ながい神経質な両手をこすりあわせた。<br />「簡単そのものさ。僕の眼には、君の左の｜靴《くつ》の内がわの、ちょうどその暖炉の火の照りはえている場所に、ほぼ平行な｜疵《きず》が六本見える。これは明らかに、靴底の｜縁《ふち》にこびりついたどろをかきおとそうとして、そそっかしい者がつけた疵だ。そこで、二つの推理が｜抽《ひ》きだせることになる。君が悪天候のとき外出したことと、君のうちの女中がロンドンきってのやくざ女だという二つのね。君の開業していることだってそうだ。ヨードホルムの｜臭《にお》いをプンプンさせ、右のひとさし指に｜硝酸銀《しようさんぎん》で｜焦《や》けた黒い｜痕《あと》があり、さもここに｜聴診器《ちようしんき》をいれていますといわぬばかりに、シルクハットの一方をふくらませた｜紳《しん》｜士《し》がはいってきたんだ。それでその紳士が開業医だとわからないようだったら、僕はよくよくまぬけじゃないか」<br />　説明を聞いてみると、あんまり何でもないことなので、私は笑いださずにはいられなかった。<br />「推論の根拠を聞くと、いつでもばかばかしいほど簡単なので、僕にだってできそうな気がするよ。それでいて実際は、説明を聞くまでは、何が何だかわからないのだから情けない。眼だって君より悪くなんかないつもりなんだがねえ」<br />「それはそうさ」とホームズは巻きタバコに火をつけて、肘掛椅子にどかりと｜腰《こし》をおろしながらいった。「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。たとえば君は、｜玄関《げんかん》からこの部屋まであがってくる｜途中《とちゆう》の階段は、ずいぶん見ているだろう？」<br />「ずいぶん見ている」<br />「どのくらい？」<br />「何百回となくさ」<br />「じゃきくが、段は何段あるね？」<br />「何段？　知らないねえ」<br />「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。ところでね、君は僕のやったつまらない事件に興味をもっているし、一つ二つは実際談を書いてくれたりしたほどだから、こいつはおもしろいかもしれないよ」<br />　と彼はテーブルのうえにひろげてあったピンクの厚手の｜用箋《ようせん》を一枚私のほうへ投げてよこした。<br />「さっき郵便できたばかりだ。大きい声で読んでみないか」<br />　手紙には日付がなく、差出人の住所も名も書いてはなかった。文面はつぎのとおり――<br /><br /><br />　今夕八時十五分まえに、貴家を訪問いたす者がありますが、右はきわめて重大なる問題に関し、特に貴下に御相談したき紳士であります。最近貴下がヨーロッパのある王室にたいしてなされた｜御尽力《ごじんりよく》は、貴下が形容を絶するこの重大事を、安んじて｜託《たく》すことのできる方であることを示しております。この貴下の評判については各方面からわれらは聞きおよんでおります。同時刻には必ず御在宅くださるよう、かつ訪問者が｜覆面《ふくめん》いたしておりましても、｜御《ご》｜容赦《ようしや》くださるよう願いあげます。<br /><br /><br />　<br />「妙な手紙だねえ。いったいどういうつもりなんだろう？」<br />「まだ材料が一つもない。資料もないのに、ああだこうだと理論的な説明をつけようとするのは、大きな間違いだよ。人は事実に合う理論的な説明を求めようとしないで、理論的な説明に合うように、事実のほうを知らず知らず｜曲《ま》げがちになる。だが、それはともかくこの手紙だが、これから君はいったいどういうことを推察するね？」<br />　私は注意ぶかく手紙の｜筆跡《ひつせき》や、その紙質などを｜検《あらた》めた。<br />「これを書いたのは、おそらく｜暮《くら》しむきのゆたかな男だろう。この紙じゃ一｜帖《じよう》半クラウン以下では買えまいからね。妙に腰の強い、ゴワゴワした紙だ」私はつとめてホームズ流を｜模《も》｜倣《ほう》した。<br />「そこだ。たしかに妙な紙だよ。これはね、イギリス製の紙じゃないんだぜ。あかりに｜透《す》かしてみたまえ」<br />　いわれたとおりにしてみると、小文字のｇを｜添《そ》えた大文字のＥ、つぎに大文字のＰ、それから小文字のｔを添えた大文字のＧが透かしにはいっていた。<br />「何だと思う？」<br />「製紙家の名前だろう。｜頭《かしら》｜文字《もじ》をとっていれたんだね」<br />「それどころか。Ｇｔ．はドイツ語のＧｅｓｅｌｌｓｃｈａｆｔ【ゲゼルシヤフト】の略字で、会社という意味だ。英語のＣｏ．にあたるわけだね。それからＰはむろんドイツ語の｜Ｐ《＊》ａｐｉｅｒ【（パピア）訳注　紙】だ。つぎにＥｇ．だが、これはちょっと大陸地名辞典をくってみよう」<br />　ホームズは｜書棚《しよだな》から茶いろ表紙の厚い本をとりおろした。<br />「Ｅｇｌｏｗ【エグロウ】、Ｅｇｌｏｎｉｔｚ【エグロニツツ】と、ああここにＥｇｒｉａ【エグリア】というのが出ているよ。カールスバッドから遠くないボヘミア国の都会だから、むろんドイツ語が使われている。――｜ヴ《＊》ァレンシュタイン【訳注　一五八三―一六三四。三十年戦争におけるドイツの将帥】｜終焉《しゆうえん》の地として著名、ガラス工場｜並《なら》びに製紙工場の多きをもって知らる――とある。ハハ、どうだい？」<br />　彼の両眼は輝いた。そして｜紫《むらさき》の｜煙《けむり》を大きく、ほこらしげにはきだした。<br />「するとこの紙はボヘミア国製なんだね？」<br />「まさにそのとおり。そしてこの手紙を書いた人物がまたドイツ人だ。This account of you we have from all quarters received（この貴下の評判については各方面からわれらは聞きおよんでおります）なんていう文章の組みたてが変じゃないか。フランス人やロシア人なら、こんなふうにはけっして書かない。動詞をこんなに｜虐待《ぎやくたい》して、文章の最後にもってゆくのは、ドイツ人にかぎる。だからあとは、ボヘミア製の紙を使うこのドイツ人が、何を求めているか、何だって覆面してまでくるのかということだけが、問題としてのこるわけだが、どうやらご本人がやってきたらしいから、この疑問は直接解いてもらうとするかね」<br />　このとき表に歯切れのよい｜蹄《ひづめ》の音と、｜土《ど》｜止《どめ》｜石《いし》に｜軋《きし》む｜轍《わだち》のひびきが聞え、つづいてベルが強く鳴りひびいた。<br />「あの音でみると馬車は二頭だてだね」とホームズは大きな期待でヒュッと｜口笛《くちぶえ》を鳴らし、窓からちらと下を見おろしていった。「ウム、りっぱな｜四輪馬車《ブルーム》だ。馬もいい。一頭百五十ギニーはする。ワトスン君、この事件は、たとえ内容がどんなにつまらないにしても、金の関係だけは、話が大きいぜ、きっと」<br />「じゃ僕は帰ったほうがいいだろうね？」<br />「そんなことないよ。かまわないから、そこにいたまえ。伝記作者がそばにいてくれないと、張りあいがないからね。それに事件もおもしろそうだ。こんなのを聞きのがすという手はないぜ」<br />「でも｜依《い》｜頼者《らいしや》のほうで……」<br />「そんな心配をすることはないよ。僕も手つだってもらわなきゃならないかもしれず、向うだってやっぱりそうだろう。さ、来たぜ。その肘掛椅子にかけて、できるだけの注意を集中していたまえ」<br />　おちついた重い足音が、階段をのぼって、｜廊《ろう》｜下《か》をこっちへ、やがてドアのそとでとまったと思ったら、たれはばからぬ大きなノックが聞えた。<br />「どうぞ」<br /><br />　ホームズの声に応じてはいってきたのは、内輪に見ても身のたけ六フィート六インチは下らず、神話のヘラクレスのようなたくましい体格の男であった。｜服装《ふくそう》は立派であるが、ただしこんなふうな美々しさは、イギリスではむしろ下品と見なされるだろう。上着の｜袖《そで》と両前の｜襟《えり》には｜幅《はば》ひろくアストラカン毛皮の折返しを見せ、両袖を｜肩《かた》にはねあげた｜濃紺《のうこん》のマントには、まっ赤な絹裏がつけてあり、キラキラ光る｜緑玉石《ベリル》一粒を｜飾《かざ》ったブローチで襟もとをとめている。そして｜脛《はぎ》の半ばまである長靴の、｜上端《じようたん》にふさふさした茶いろの毛皮をつけたのをはいたところは、いよいよもって全体の下品なゆたかさの感じを強めていた。それが片手には｜鍔《つば》びろの｜帽《ぼう》｜子《し》をもち、顔の上半分は、額から｜顴骨《かんこつ》の下までもある｜眉庇《まびさし》がたの黒いマスクで隠しているが、ちょうどその具合をなおしたところと見えて、はいってきたときは、まだ片手をそこへやっていた。顔の｜下半分《しもはんぶん》の、見えている部分だけから察するに、強い性格の持主らしく、厚くつき出た｜唇《くちびる》、まっすぐにながくのびた｜顎《あご》などは、｜強情《ごうじよう》といってもよい｜剛《ごう》｜毅《き》さを思わせた。<br />「手紙は見ましたろうな？」深い、耳ざわりな声で、ひどいドイツ｜訛《なま》りがあった。「訪ねてまいると申しておいたのだが――」<br />　どっちへ話しかけてよいか、迷うらしく、私たち二人を見くらべた。<br />「どうぞおかけください」ホームズがいった。「こちらは私の親友でもあり、仕事のうえの共同者でもあるワトスン博士で、事件を手つだってくれたこともたびたびあります。してご尊名は？」<br />「名前は、フォン・クラム｜伯爵《はくしやく》と呼んでもらいましょう。ボヘミア国の貴族です。親友だといわるるが、この紳士は、大事を語る｜思《し》｜慮《りよ》と信義を備えた｜仁《じん》と考えてよろしかろうな？さもなければ、｜貴《き》｜君《くん》と二人だけで話しあうほうが、自分としては好ましいのだが」<br />　私は立って、無言のまま出てゆこうとした。するとホームズが手首をつかんで、もとの椅子に｜押《お》しもどしながらいった。<br />「こちらは二人でなければ、お聞きいたさないまでです。私におっしゃるほどのことでしたら、どんなことでもこの男に聞かせてさしつかえございません」<br />　伯爵はそのひろい肩をそびやかした。「でははじめるが、そのまえにまず、二年間は絶対に秘密を守ると、お二人に｜誓約《せいやく》してもらわなくてはならん。二年を無事に経過すれば、いっこう問題はなくなるのだが、いまのところは、ヨーロッパの歴史をも動かすほどの大問題であると申しても、すこしも｜誇張《こちよう》ではないのだから」<br />「お｜約束《やくそく》いたします」<br />「私とても」<br />「つぎに、この覆面をお許しねがいたい。これは自分にこの役を命ぜられたある高貴なおかたのご希望によるもので、なおじつを申せば、先ほど申した自分の名前も、本名ではありません」<br />「それは気づいていました」ホームズがそっけなくいった。<br />「事情はきわめて複雑｜微妙《びみよう》なもので、場合によっては一大｜醜聞《しゆうぶん》となって、ヨーロッパのある王室に｜累《るい》をおよぼすおそれがあるから、極力未然に防圧しなければならない。はっきり申せば、じつはボヘミア国累代の王室オルムシュタイン家にからまる問題なのです」<br />「そのこともわかっておりました」ホームズはつぶやき、肘掛椅子に身を｜沈《しず》めて、じっと眼をつぶった。<br />　客は、ヨーロッパ｜随一《ずいいち》の｜明敏《めいびん》なる推理家として、また精力的な｜私《し》｜立探偵《りつたんてい》として｜推薦《すいせん》されて訪ねてきたのにちがいないホームズの、いかにもだらしなく、元気のないこの有様に、あからさまな｜驚《おどろ》きを見せた。するとホームズは、静かに眼をあけて、さももどかしげに｜巨《きよ》｜人《じん》依頼者を見やっていった。<br />「陛下がおんみずから、詳しい事情をお話しくださいますならば、私といたしましても、よりよきご助力をいたしうるかと存じます」<br /><br />　客は椅子からとびあがって、せかせかと部屋のなかを歩きまわり、なおも心の｜動揺《どうよう》を｜抑《おさ》えかねる様子であったが、やがて絶望的な身ぶりで、かけていたマスクをむしりとり、｜床《ゆか》のうえにたたきつけて｜叫《さけ》んだ。<br />「いかにも！　余はボヘミア国王である。なぜ余はそれを｜隠《かく》そうといたしたのであろう？」<br />「まったくでございますな。私は、陛下がまだひと言もお話しになりませぬうちから、ヴィルヘルム・ゴットスライヒ・ジギスモンド・フォン・オルムシュタイン陛下、カッセル・ファルシュタインの大公、すなわちボヘミア国の｜今上陛下《きんじようへいか》にあらせられると存じあげておりました」<br />「しかし断わっておくが」とこの不思議な客は、やっと椅子にもどって、｜秀《ひい》でた白い額に手をやりながらいった。「断わっておくが、余みずからかかる問題に｜携《たずさ》わるのは異例のことである。さればとて、代理の者に事情をうちあけて、処理を命ずれば、余は将来必ずその者に死命を制せられるだろう。それほど問題は重大なのだ。そこで、余みずから君に相談するつもりで、プラハから微行でこちらへ参ったしだいなのだ」<br />「では、そのご相談ごとを｜承《うけたまわ》るといたしましょう」ホームズはふたたび｜両眼《りようめ》を静かにとざした。<br />「簡単に申せば、事実はこうだ。――いまから五年ばかりまえ、ワルシャワに長らく｜滞留《たいりゆう》｜中《ちゆう》のことであったが、余は名うてのいかがわしい女アイリーン・アドラーと申すものと知りあった。この名前は、むろん君も聞き知っているであろうが」<br />「ワトスン君、すまないが、ちょっと｜索引《さくいん》を見てくれないか」ホームズは｜眼《め》をとじたままでささやいた。<br />　｜彼《かれ》は多年にわたって、あらゆる人物に関する｜記《き》｜載《さい》を、要点だけ書きとめて整理していたので、いつどんな問題どんな人物をもちだされても、｜即《そく》｜座《ざ》にそれに関する知識の得られないということは、一つとしてなかった。この場合でも、索引をくってみると、ユダヤの学士と、深海魚に関する専門的な小論文を書いたある海軍｜参謀中佐《さんぼうちゆうさ》の名のあいだにはさまって、｜彼女《かのじよ》の経歴はすぐに見つかった。<br />「どれ、見せたまえ。――フム、一八五八年米国ニュージャージーの生れ、｜最低女声音《コントラルト》歌手、スカラ座出演、フム！　ワルシャワ｜帝室《ていしつ》オペラのプリマドンナ……｜歌《か》｜劇壇《げきだん》引退……ホウ、目下ロンドン在住か、なるほどね！　そうしますと陛下、この若い人物と｜煩《わずら》わしい関係をおもちになりまして、問題をおこしそうな手紙をお｜与《あた》えになりましたので、それをいまはとりもどしたいとお望みなのでございますな？」<br />「そのとおり。だがどうしてそれを……」<br />「秘密に｜結婚《けつこん》でもあそばしましたか？」<br />「そんなことはしておらぬ」<br />「法律上有効な書類とか、あるいは証書のごときものをお｜遣《つか》わしでございましたか？」<br />「そのようなものは与えぬ」<br />「しからばお言葉を解しかねます。たとえばこの若い人物が、手紙の類を｜強請《ゆすり》その他の目的でもちだすといたしまして、彼女はどうしてそれが｜偽物《にせもの》でないと証明できましょう？」<br />「手跡というものは争えぬ」<br />「そんなことが！　｜偽《ぎ》｜筆《ひつ》だと｜仰《おお》せられませ」<br />「専用の料紙が用いてある」<br />「ご料紙は｜盗《ぬす》まれることもございます」<br />「余の｜封印《ふういん》が用いてある」<br />「偽造することができます」<br />「余の写真が遣わしてある」<br />「お写真は買うこともできます」<br />「二人でとった写真だ」<br />「おう、それはたいへんいけません。陛下はご｜軽率《けいそつ》をあそばしました」<br />「余は｜狂《くる》っていたのだ。正気の｜沙汰《さた》ではなかった」<br />「とんだものに深いりをあそばしましたな」<br />「当時余はまだ皇太子にすぎなかった。｜若《わか》｜気《げ》のいたりだ。ことしやっと三十｜歳《さい》だからな」<br />「それは必ずとりもどしなさらなければ」<br />「手はつくしたが成功しなかった」<br />「お金をお出しになることですね。買いもどさなければ」<br />「向うは売るまい」<br />「では盗みだしましたら？」<br />「これには五回手をうってみた。どろぼうを｜雇《やと》って、家のなかを｜隅《すみ》から隅までさがさせたのが二度、一度は旅行中に荷物を横どりして、内容を調べてもみたし、路上に｜要撃《ようげき》して、｜追《おい》｜剥《はぎ》めいたことも二度までやらせてみたが、いずれも効果はなかった」<br />「｜影《かげ》も形もございませんか？」<br />「絶対にない」<br />　ホームズははじめて笑った。「すこしばかりおもしろい問題にございます」<br />「おもしろいかもしれぬが、余にとっては｜真《しん》｜剣《けん》な問題であるぞ」<br />「まことにさようで。して彼女はそのお写真で、何をいたそうとたくらんでおりますか？」<br />「余が身を｜破《は》｜滅《めつ》させようというのだ」<br />「それはまた、どのような方法で？」<br />「余は結婚するはずになっておる」<br />「さよう承っております」<br />「先方はスカンジナヴィア国王の第二王女、クロチルド・ロートマン・フォン・ザクセメニンゲン。あの王室の家憲のきびしいのは、君もおそらく聞き知っていよう。王女自身もけだかい女性で、人いちばい悪徳をにくむ精神は強い。余の行状に一点のくもりでも感じられたならば、この話もそれまでと｜覚《かく》｜悟《ご》しなければならぬのだ」<br />「で、アイリーン・アドラーの申しますには？」<br />「先方へあの写真を送ると申して、｜脅迫《きようはく》いたしおる。実行しかねぬ女だ。あの女ならば、やりかねぬのが、余にはよくわかっておる。君は知るまいが、あれは鉄の精神をもつ女だ。外面は女性としても無類の美しさをもちながら、内心は、男もおよばぬ｜果《か》｜敢《かん》さがある。余がほかの女性と結婚するとでも知れば、どんなことをしてでもうちこわさずにおかぬ女だ」<br />「まだ先さまへ送っていないのは確実でございますか？」<br />「それは｜請《う》けあう」<br />「何をもっておわかりでございますか？」<br />「婚約が正式に発表されれば、その日に送り届けると申しおるからだ。発表はこんどの月曜日と決定しておる」<br />「ではまだ三日間の｜余《よ》｜裕《ゆう》がございます」とホームズはあくびをもらしていった。「調べておきたい重要な問題が二、三のこっておりますから、それはきわめて好都合でございます。陛下には、むろん、当分ロンドンにご滞在でございましょうね？」<br />「そのつもりでおる。フォン・クラム伯爵といって、ランガム・ホテルへ訪ねて｜来《こ》られるがよい」<br />「では、経過はその都度、簡単に書きつけまして、ご報告申しあげることにいたしましょう」<br />「よろしく｜頼《たの》むぞ。心配だからな」<br />「それから、費用の点はいかがでございましょうか？」<br />「署名白紙を｜渡《わた》しておこう」<br />「絶対におまかせくださいますか？」<br />「あの写真が手にはいるなら、余は王国の一州を｜割《さ》き与えるもいとわぬつもりでおる」<br />「それで、当座の費用につきましては？」<br />　王はマントの下から、ふくらんだ｜鞣皮《なめしがわ》の紙入れをとりだして、そのままテーブルのうえにおいた。<br />「金貨で三百ポンド、｜紙《し》｜幣《へい》で七百ポンドある」<br />　ホームズは手帳の｜端《はし》にうけとりを走りがきして、それを王に渡した。<br />「婦人の住所はおわかりでございますか？」<br />「セント・ジョーンズウッド区サーペンタイン｜広小《ひろこう》｜路《じ》のブライオニー｜荘《そう》だ」<br />　ホームズはその住所をも書きとめた。<br />「もう一つだけおうかがいいたします。お写真はキャビネ型でございますか？」<br />「そうだ」<br />「ではこれで失礼いたします。すぐに｜吉報《きつぽう》をお耳にいれうるつもりでございます」<br />　ホームズはボヘミア王の馬車の｜軋《きし》りさる音を聞きながらいった。<br />「じゃワトスン君もこれで失敬。あす三時にここへ来てくれないか、この問題を話しあってみたいと思うんだ」<br /><br /><br />二<br /><br /><br />　翌日きっかり三時に、ベーカー街を訪ねてみると、ホームズは出先からまだ帰っていなかった。おかみの話によると、朝の八時すぎに出かけたきりだという。たとえ帰るのがどんなに｜遅《おそ》くなろうとも、待っているつもりで、私は｜暖《だん》｜炉《ろ》にちかく｜腰《こし》をおちつけた。<br />　私はこんどの問題についてのホームズの調査に、もう十分の興味を感じていた。それというのが、この問題には、ほかのところへ発表した二つの事件のような、気味わるい｜怪《かい》｜奇《き》さというものはすこしもないけれど、問題の性質そのものがおもしろくもあり、依頼者の身分が高貴だという特色がある。それにまた、現に手を染めている事件の性質のことは別としても、ホームズが局面を｜把《は》｜握《あく》してゆくことの｜巧《たく》みさには、いうにいわれぬ｜妙味《みようみ》があり、その｜鋭《するど》い推理の運びぶりはまことに｜驚嘆《きようたん》すべきもので、私としては、彼の仕事の方式を研究してみたり、一見不可解な事件を、テキパキと片づけてゆく｜巧妙《こうみよう》神速な方法を、あとからたどってみるのが、何よりもおもしろくてならなかったのである。そのくらいだから私は、彼はいつでも成功するものときめてかかり、かりにも失敗しやしないかなどとは、まるで考えもしなかったのである。<br />　もうじき四時というころに、入口があいて、｜酔《よ》っているらしい｜馬《ば》｜丁風《ていふう》の男がはいってきた。｜髪《かみ》はくしゃくしゃに乱れ、｜頬髯《ほおひげ》のある顔はテラテラと赤く、見ぐるしい｜服装《なり》をしている。ホームズの｜変装術《へんそうじゆつ》の巧みさには慣れている私だが、それでもこれが｜間《ま》｜違《ちが》いなくホームズだと｜確認《かくにん》するまでには、三度も見なおさねばならなかった。彼はちょっと｜顎《あご》をしゃくっておいて、｜寝室《しんしつ》へ姿を消したが、五分で出てきたのを見ると、いつものとおりスコッチの服をきちんと着たホームズである。両手をポケットに｜突《つ》っこんで、暖炉のまえの｜椅子《いす》におさまって｜両脚《りようあし》を投げだし、しばらくは腹の底から笑っていたが、<br />「いや、まったく……」と叫んだきり急にむせかえり、またもやこみあげてくる笑いに、とうとう椅子のうえでぐんなりとのびてしまった。<br />「どうしたんだね？」<br />「いや、あんまりおかしいものだから、――｜僕《ぼく》が今朝どんなことをしたか、またそれがどんな結果をもたらしたか、むろん君にわかるはずはないのだがね」<br />「わからないさ。だがきっと、アイリーン・アドラーの家を見たり、日常生活の様子をうかがいに行ったんだろう？」<br />「そうさ。だがそのあとがちょっと変ってるんだ。話して聞かそうか。僕は今朝八時ちょっとすぎに、失業した馬丁に化けて家を出た。この社会の者には驚くべき思いやりと、｜相互《そうご》｜扶助《ふじよ》精神とがあるものでね、だからその社会の者になれば、知りたいことは何でも洗いざらい知れるというわけなんだ。で、アイリーンのブライオニー荘というのはすぐわかったが、小ぢんまりした二階だての別荘風の家でね、裏には庭があるけれど、表は往来からすぐだった。入口にはチャブ｜錠《じよう》がかけてある。はいってすぐ右がわが｜飾《かざ》りつけの立派な大きい居間で、床まで届きそうな大きい窓があるが、これは子供にもあけられる例のイギリス風の｜愚《ぐ》にもつかぬ｜戸《と》｜締《じま》りがしてあるだけだ。裏手はこれといって変ったところもない。ただ馬車小屋の屋根から手の届くところに、二階の｜廊《ろう》｜下《か》の窓が一つあった。そのほか家のまわりを歩いて、あらゆる見地から注意ぶかく｜検《あらた》めてみたが、これといって注目すべきところはない。<br />　そこで｜街《まち》をぶらぶら歩いてゆくと、予想のとおり裏庭のへいに沿う横丁で営業している｜廐舎《きゆうしや》があったから、馬丁が馬をこするのを手つだってやって、お礼に金を二ペンスと混成酒を一｜杯《ぱい》、それにシャグタバコを二服もらったうえ、アイリーンのことをすっかり聞きだしてきた。もっともそれにはおまけとして、用もない近所の人たち五、六人の、何の興味もない行状記まで｜謹聴《きんちよう》させられたがね」<br />「それで、アイリーンのどんなことを？」<br />「そうさ、あの女はあのへんの男という男を｜悩殺《のうさつ》しているようだ。女と生れて、この世に二人とはない｜佳《か》｜人《じん》だと、あそこの廐舎の連中は口をそろえていっている。ときどき音楽会で歌ったりして、地味に｜暮《くら》しているが、ふだんは毎日五時に馬車で出かけて、きっかり七時には夕食に帰ってくる。出演のときは別だが、これ以外の時間に出かけることは、ほとんどない。訪ねてくる者としては、男客が一人あるだけ、それもかなりしげしげやってくる。髪も眼も黒っぽい、おしゃれな美男子で、日に一度来ない日はないが、どうかすると二度来ることも｜珍《めずら》しくない。名前はゴッドフリー・ノートンといって、イナー・テンプルにいる男だ。タクシー馬車の｜馭者《ぎよしや》を無二の友にもつありがたみがこれでわかったろう？　先生たちはこの男を、何度もあそこから家まで送り届けたから、何でもよく知っていた。洗いざらいしゃべるのを、すっかり聞いてしまうと、もういちどブライオニー荘のまえへ引返して、そのへんをぶらぶら歩きながら、｜戦《せん》｜闘《とう》計画をめぐらしたよ。<br />　このゴッドフリー・ノートンという男はたしかに、この問題の重要な要素にちがいない。弁護士だったというが、それだけで、意味ありげにひびく。それに、二人はどういう関係なのだろう？　なぜそうしげしげと訪ねてくるのだろう？　弁護士と｜依《い》｜頼人《らいにん》という関係なのだろうか？　単なる友人にすぎないのだろうか？　それとも｜恋愛《れんあい》関係か？　もし弁護士としての関係なら、写真はおそらくこの男に保管を｜託《たく》してあるだろう。愛情関係ならば、まずその心配はない。<br />　この問題のいかんによって、僕は依然ブライオニー荘で仕事を｜継続《けいぞく》すべきか、それともテンプルのノートンの部屋へ｜焦点《しようてん》を転向させるべきかが決するのだ。これはじつに｜微妙《びみよう》な難点でもあるし、またそのため僕の調査｜範《はん》｜囲《い》が拡大されてきたわけでもある。こうくどくどと｜逐一《ちくいち》話をするのは、君も｜退屈《たいくつ》するかもしれないが、戦局を十分｜了解《りようかい》してもらうためには、僕の｜窮境《きゆうきよう》をよく知らせておく必要があるからだよ」<br />「いや、よくわかるよ」<br />「どっちだろうかと、思い｜悩《なや》んでいるところへ、タクシー馬車が一台ブライオニー荘のまえでとまって、なかから一人の｜紳《しん》｜士《し》がとびだした。髪も眼も黒っぽい、なかなかの好男子だ。むろんあの男にちがいない。ひどく急いでいる様子で、その｜二輪馬車《ハンサム》の馭者に、待っているようにどなりすてると、戸をあけた女中を｜押《お》しのけるようにしてなかへはいりこんだ様子は、ふだんからこの家をわが家のようにふるまっているらしい。<br />　いたのは三十分ばかりだが、ひどく興奮した様子で、手を｜振《ふ》り振り歩きまわりながら、何事か熱心にしゃべりまくるのが、居間の窓からちらちらと見えた。アイリーンのほうはすこしも見えなかったが、そのうち出てきた男の様子を見ると、さっきよりはいっそう｜急《せ》きこんで、馬車に乗りながら金時計を引きずりだしてみて、『大急ぎでとばしてくれ。リージェント街のグロス・エンド・ハンキー商店をまわって、エッジウェア街の｜聖《セント》モニカ教会までだ。二十分でまわったら半ギニーやる』とどなった。<br />　馬車は行ってしまった。あとを追うべきか、どうしたものかと迷っていると、横丁から小型の美しい｜四輪馬車《ランドー》が出てきたが、見ると馭者は服のボタンを半分しかかけていないし、ネクタイは横ちょに曲っているし、装具ときたらどれ一つとして満足についているのはないという始末で、一見よほど急いで出てきたということがわかる。こいつが｜玄関《げんかん》さきにとまるが早いか、あの女がなかからとびだして、ひらりと乗りこんだ。そのとき僕はちらと見ただけだが、なるほどあれなら男子が生命も投げだしかねない美しさだ。『｜聖《セント》モニカ教会よ。二十分で行けたら半ソヴリンあげるわ』と彼女も急いでいる。<br />　こんなよい機会をのがしてなるものか。あとを追って｜駆《か》けだそうか、それとも馬車のしりにかじりついてやろうかと思っていると、おりよくタクシー馬車がやってきた。あんまりきたないお客の｜風体《ふうてい》に、馭者は二度までじろじろと見なおしていたが、断わられるより先に僕は乗りこんでしまった。『｜聖《セント》モニカ教会だ。二十分でいったら半ソヴリンやる』僕もおなじことをいったものだ。時刻は十二時二十五分まえだ。向うで何があるか、いわずと知れている。<br />　馬車は速かった。こんなに速い馬車には乗ったことがないと思ったくらいだ。しかし行ってみると、もう｜二輪馬車《ハンサム》も｜四輪馬車《ランドー》も先に着いて、馬が教会のまえでさかんに湯気をたてていた。急いで金を｜払《はら》って、教会へはいってみると、なかにはあの二人のほかに、白い｜僧服《そうふく》の牧師がいるだけ。これは何かしきりと二人を説き｜諭《さと》しているらしい。<br />　ひろい教会のなかの｜聖壇《せいだん》の下に、この三人がポツンと一団になっているのだが、僕は気まぐれにとびこんだヒマ人というつもりで、側廊をぶらぶら歩いていると、とつぜん、三人がこちらへ顔を向けたので、ハッとしたが、何を思ったかノートンがこちらへ向けて、大急ぎで駆けてくるではないか。そして、<br />『ありがたい！　君でいい。さ来たまえ』とわめくのだ。<br />『どうするんですかい？』<br />『さア来た、来た。たった三分間でいいんだ。でないと法律上無効になる』<br /><br />　まるで引きずりあげるようにして、僕は聖壇へのぼらされたうえ、気のついたときには、耳のそばでささやく声にへどもどうけ｜応《こた》えしたり、まるきり知りもしないことの証人となったり、いつのまにか｜未《み》｜婚《こん》｜婦《ふ》｜人《じん》のアイリーン・アドラーと独身の男子ゴッドフリー・ノートンとの結婚成立に立会わされてしまったわけだ。<br />　式はあっという間にすんで、気がついてみると、｜花嫁《はなよめ》と｜花婿《はなむこ》が左右からお礼を述べる。正面の牧師はニコニコしながら僕を見ているという始末で、今までにこんなばかばかしい目にあったのははじめてさ。いまも思いだすとおかしくて、おかしくて、それであんなに笑いころげたわけだが、結婚許可証に何かの不備があって、証人がなければ絶対に引受けられないと、牧師に強く断わられたので、花婿先生どこかへ適当な｜付添男《ペストマン》をさがしにゆかなきゃならなくなった。そこへひょっくり僕が現われたので、これ幸いとその役を押しつけたというわけだろう。あとで花嫁がソヴリン金貨を一つお礼にくれたが、この｜珍談《ちんだん》の記念として、時計の｜鎖《くさり》につけるつもりさ」<br />「そいつは意外なことになったものだ。それで、それからどうしたね？」<br />「それから――そうさ、僕は計画が重大な危機に面していると思った。二人はすぐにも帰ってゆきそうな様子だから、こっちも時をうつさず有効適切な処置をとる必要がある。だが、教会の戸口で二人は左右に別れて、ノートンはテンプルへ帰ってゆくし、アイリーンはブライオニー荘へと馬車を駆っていった。別れるときアイリーンが、『五時にはいつものように、馬車で公園へ行きます』というのだけが聞えた。というわけで、二人が別々に帰っていったから、僕も自分の準備を整えに、その場を立ちさった」<br />「その準備というのは？」<br />「コールド・ビーフでビールを一杯やることさ」といってホームズはベルを鳴らした。「あんまり｜忙《いそが》しくて、食べることを忘れていたが、今晩はもっと忙しくなりそうだ。ところで、君に｜助《すけ》｜太刀《だち》を頼みたいんだがね」<br />「喜んで手つだうよ」<br />「法律にふれてもかい」<br />「ちっともかまわない」<br />「｜捕《つか》まるかもしれないよ」<br />「理由さえ悪くなきゃ、平気さ」<br />「理由は立派にたつんだ」<br />「そんなら何でも君のいうとおりにするよ」<br />「君ならきっと、やってくれると思ったんだ」<br />「でも、いったい何をしようというんだい？」<br />「いまターナー夫人がお｜盆《ぼん》をもってきてくれたら、｜詳《くわ》しく話すよ」と、このとき下宿のかみさんの用意してくれた簡単な料理を引きよせて、むさぼりながらいった。「時間がないから、食べながら話すよ。もうじき五時だ。いまから二時間のうちには、現場へ行ってなきゃならない。七時にはアイリーンが帰ってくるのだから、それに間にあうように、ブライオニー荘へ行ってなきゃならないのだ」<br />「それで？」<br />「それでどうするか、そこは僕にまかせてもらおう。手はずはちゃんと整えてある。ただ一つ、ぜひ守ってくれなければならないのは、どんなことがもちあがっても、けっして｜邪《じや》｜魔《ま》してはならないことだ。いいだろうね？」<br />「局外中立を守るわけだね？」<br />「けっして何もしないことだ。おそらくちょっとした｜不愉《ふゆ》｜快《かい》なことが起ると思うが、けっしてそれにまきこまれてはいけない。僕が家のなかへ｜担《かつ》ぎこまれたら、それで終りなんだ。四、五分もたつと、居間の窓があくはずだから、君はその窓のすぐ下に｜陣《じん》どっているのだ」<br />「承知した」<br />「そして僕の姿は見えるはずだから、君は僕から目をはなさないでいるんだ」<br />「わかった」<br />「それから僕がこういうふうに手をあげて、合図をしたら、僕から渡しておくものを部屋のなかへ｜放《ほう》りこんで、火事だとどなるんだ。わかったね？」<br />「よくわかった」<br />「こいつは、ちっとも｜恐《おそ》ろしい｜代物《しろもの》じゃないんだよ」とホームズはポケットから葉巻形の棒のようなものを出して、「配管工の使うただの｜煙花火《けむりはなび》で、自動発火をするように、両端に｜雷管《らいかん》をつけただけなんだ。君はこいつを投げこんでくれさえしたら、それでいい。火事だとひと声わめけば、あとはやじ馬が集まって｜騒《さわ》いでくれるから、君は向うの街角まで｜退《たい》｜避《ひ》して待っていればよい。十分もしたら、僕もそこへ行く。すっかりのみこんだろうね？」<br />「僕は局外中立で、窓のそばへ寄ってゆき、そとから君を見ている。そして合図があったらこいつを投げこんで、火事だとどなってから、向うの角で君の来るのを待っていればいいんだね？」<br />「そうそう、そのとおりだ」<br />「じゃひき受けたから、安心していいよ」<br />「そいつはありがたい。ところで、つぎなる役を演じる予定の時刻が、そろそろ｜迫《せま》ったらしい」<br />　こういってホームズは、寝室へ姿を消したが、二、三分で出てきたのを見ると、いかにも実直な、愛すべき独立教会派の牧師になりすましていた。｜幅《はば》ひろい黒の｜帽《ぼう》｜子《し》といい、｜袋《ふくろ》のようにだぶだぶのズボンといい、白ネクタイといい、思いやりの深そうな微笑といい、｜慈《いつく》しみをこめたおせっかいな｜風貌《ふうぼう》といい、どう見ても名優ジョン・ヘアを除いてはくらぶべきものもないばかり巧みな変装ぶりであった。単に服装をとりかえただけではない。その表情、その態度、その｜魂《たましい》までもその役になりきっているように見えた。彼が｜探偵《たんてい》｜家《か》になったということは、科学界にとって一個の｜明《めい》｜敏《びん》な推理家を失ったことになるし、劇壇もまた、｜一人《ひとり》のすぐれた名優を得そこねたことになるわけである。<br /><br />　いっしょにベーカー街の家を出かけたのは、六時十五分すぎだったが、サーペンタインの｜広小《ひろこう》｜路《じ》まで行ってみると、その時刻までにはまだ｜十分《じゆうぶん》あった。もうあたりは｜黄昏《たそが》れており、ブライオニー｜荘《そう》のまえをぶらぶらして主人の帰りを待ちうけているうち、街灯がともりはじめた。家はホームズの簡単な説明で私が心に｜描《えが》いていたとおりだったが、場所がらは思ったほど｜閑静《かんせい》な土地でもなかった。それどころか、付近の｜閑寂《かんじやく》さのなかにあって、その｜狭《せま》い通りだけは｜妙《みよう》に｜人《ひと》っ｜気《け》が多かった。街角には一団のむさくるしい人たちが、タバコをのんだり、笑い興じたり、はさみとぎ屋が車をとめているし、そうかと思うと一人の｜子守娘《こもりむすめ》を、｜近《この》｜衛《え》の兵隊が二人してからかっているし、葉巻を口に、一つところをぶらりぶらりと｜往《い》ったり来たりしている、｜服装《みなり》のよい｜幾人《いくにん》かの青年もあった。「この結婚がね」とホームズは私とならんで、家のまえを往ったり来たりしながらいった。「かえって問題を簡単にしてくれたよ。これで例の写真は｜両《もろ》｜刃《は》の｜刃《やいば》になった。ボヘミア王がスカンジナヴィアの王女の目にふれるのを｜怖《おそ》れると同じに、アイリーン自身としても、ノートンに見られちゃ困ることになるからね。問題は、どこに写真が｜隠《かく》してあるかだ」<br />「ほんとに、どこへ隠しているのだろう？」<br />「よもや身につけてもちあるいているとは思えない。キャビネ型だから、大きすぎて、婦人服では隠すところがない。それに｜彼女《かのじよ》のほうでも、王がいつなんどき路上で待ち伏せして、身体検査をするかもしれないくらいは心得ている。現に二度までそんな目にあっているのだ。してみると、彼女が身につけてもちあるいていることは、まずないものと思ってよかろう」<br />「すると、どこに隠しているのだろう？」<br />「銀行か弁護士か、この二つがありうる場合として考えられようが、僕はそのどちらにも同意できない。女性は生れつき秘密好きなものだけれど、人にはたよらず、とかく自分だけで隠しだてをしたがる。他人の手になぞ｜渡《わた》す気になるものか。自分の手もとへ保管していてこそ安心もできるが、どんな間接の、または政治的な支配力をうけるかもしれない事務屋の手になぞ渡す気にはなるまい。それに、忘れてならないのは、二、三日中に彼女はそれを使うつもりでいるのだ。どうしても手近におく必要がある。としてみれば、家のなかにおいてなければならないという結論がでてくる」<br />「でも、二度もどろぼうをさしむけられたんだろう？」<br />「だめだよ。さがしかたを知らないんだから」<br />「じゃ君はどうやってさがす？」<br />「さがしたりなんかするものか」<br />「じゃどうするんだい？」<br />「彼女自身に出させるのさ」<br />「応じないだろう？」<br />「なに、応じざるをえないさ。おや、｜轍《わだち》の音がする。彼女の馬車だ。さっきの命令をちゃんと実行するんだぜ」<br />　このとき、大通りのカーヴをまわったので、馬車の側灯が見えてきた。やがてブライオニー荘の玄関によせられたのは、当世風の小さい四輪馬車だった。馬車がとまるのを見て、街角にいた｜浮《ふ》｜浪者《ろうしや》が一人駆けよって、ドアをあけて銅貨にありつこうとしたが、それはおなじ目あてで駆けつけた別の浮浪者に｜突《つ》きのけられた。<br />　たちまちはげしい｜喧《けん》｜嘩《か》になった。そこへもってきて、例の近衛兵が二人とんできて、一方の｜肩《かた》をもつと、はさみとぎの男がまけずにカンカンになって反対がわに加勢するというわけで、騒ぎはいっそう大きくなった。｜拳《げん》｜固《こ》がとぶ。と、このとき馬車から降りたったアイリーンは、あっという間に拳固やステッキの乱れとぶ｜大乱闘《だいらんとう》のまん中へまきこまれてしまった。<br />　ホームズはアイリーンを保護しようと、その大立回りのなかへとびこんでいった。ところがやっとそばまで行ったと思ったら、あッと｜叫《さけ》んでそこへぶっ｜倒《たお》れ、顔から血がほとばしった。それを見て、二人の近衛兵は早くも｜逃《に》げさり、浮浪者も別の方角へ一目散に逃げていった。すると、喧嘩には加わらずに、騒ぎを見物していた｜服装《みなり》のよい青年が、先を争ってアイリーンを助け、負傷者の｜介抱《かいほう》にひしめきあった。<br /><br />　アイリーン・アドラーは、結婚したけれどやはりこの名で呼んでおくが、急いで玄関の石段を駆けあがり、そこに立ちどまると、ホールのあかりを背にうけて、美しい姿をくっきりと｜浮《うか》びあがらせ、路上を見おろした。<br />「そのかたのお｜怪我《けが》は重うございますの？」<br />「死んでいますよ」いくつかの声が答えた。<br />「いや、まだ息がある」別の声がわめいた。<br />「でも病院までは｜保《も》つまい」<br />「ほんとに男らしいかたですわ」女の声だった。「この方が出てくださらなければ、あなたさまは｜財《さい》｜布《ふ》も時計もおなくしになったでしょう。あの人たちは同類です。それも乱暴なことをする同類です。あら、息をしているわ」<br />「こんなところへ｜寝《ね》かしておくって法はないよ。｜奥《おく》さん、なかへつれこんじゃいけませんか？」<br />「どうぞ。居間のほうへおつれしてください。ソファがお楽でよいでしょう。どうぞこちらへ」<br />　静かに、そして物々しく、ホームズは家のなかへ担ぎこまれ、表の間へ寝かされた。そのあいだじゅう私は、窓下の定めの位置にいて、のこりなく様子を見ていたが、部屋のなかにはランプがともされ、しかもブラインドがおろされなかったから、｜彼《かれ》がソファにそっと寝かされるところまで、よく見えた。ホームズがいま、みずから演じた｜芝《しば》｜居《い》にたいして、良心の｜苛責《かしやく》を感じているか｜否《いな》かは知るよしもないけれど、私としては、自分がこの美しい婦人を｜誑《たばか》っているのだと思うと、そしてそれが｜甲斐々々《かいがい》しく怪我人を介抱しているのを目にしては、かつて覚えのないほどの｜恥《は》ずかしさで、穴でもあったらはいりたいくらいであった。<br />　といって、私が役割を｜放《ほう》｜棄《き》してこの場を逃げだしたのでは、ああまで｜信頼《しんらい》してくれるホームズにたいして、このうえない悪質の裏ぎりとなるだろう。私は心をはげまして、｜長外《なががい》｜套《とう》の下に隠しもった例の煙花火をとりだした。結局のところ、私たちは彼女を理由なく害するつもりはないのだ、彼女が第三者を害するのを｜阻止《そし》したいだけなのだ――私はそう自分にいいきかせた。<br />　ホームズはソファのうえに起きあがった。そしていかにも息ぐるしそうな様子であった。すると女中がとびだして、さっと窓をおしあけた。同時に、ホームズの片手をあげるのが見えた。合図だ。私はとっさに煙花火を窓のなかへ投げこんで、火事だッと叫んだ。するとそのひと言で、服装のよいも悪いも、｜紳《しん》｜士《し》も浮浪者も女中も、およそいあわせたほどの見物人が声をそろえて、火事だッとわめいた。<br />　｜濃《こ》い煙が室内に｜渦《うず》まいて、もくもくと窓から出てくる。その煙のなかを、右往左往する姿が室内にちらついた。と、ホームズが、いまのは誤報だ、火事ではないと、人々をしずめるのが聞えた。わめき騒ぐ群衆のあいだをぬけて、私はそっと｜街角《まちかど》までたちのいた。そして十分間ののち、ホームズが来て私の｜腕《うで》に手を通すのにあい、いっしょに騒ぎの現場から立ちさったのだった。<br />　彼は無言のまま、数分間は走るように速く歩いたが、エッジウェア街のほうに出るそのへんの人通りまばらな横丁へ入ると、やっと歩調をゆるめていった。<br />「非常にうまくやってくれたね。ああうまくは、なかなかやれるもんじゃない。もう｜大丈《だいじよう》｜夫《ぶ》だよ」<br />「写真を手にいれたんだね？」<br />「隠してある場所がわかった」<br />「どうやって見つけたんだい？」<br />「自分で教えてくれたよ。｜僕《ぼく》のいったとおりさ」<br />「といわれても、僕にはさっぱりわからない」<br />「わざと君に隠すわけじゃないよ」とホームズは笑っていった。「事はきわめて簡単だった。喧嘩した連中も、やじ馬も、みんなこっちの仲間だったのは、君も気がついていたろう？　今晩だけの｜約束《やくそく》で｜雇《やと》ったんだ」<br />「それはほぼ察していた」<br />「喧嘩のはじまったとき、手のなかに紅の｜溶《と》かしたのを隠していてね、とびこんで倒れるなり、その手で顔を｜押《おさ》えて見せたのさ。ふるい｜術《て》だ」<br />「それもほぼ察しはついた」<br />「それからみんなで僕を担ぎこむ。アイリーンだって、あの際いやとはいえない。断わる口実があるまいじゃないか。しかも、僕の目をつけていた居間へいれてくれた。写真は居間か｜寝室《しんしつ》か、どっちかに隠しているにきまっている。僕としては、どっちであるかを確かめる必要がある。ソファに寝かされたから、息ぐるしそうにして、窓をあけさせるように仕むけた。それで君はチャンスを得たわけだ」<br />「あれが何の役にたったのだい」<br />「きわめて大切だった。女というものは、自家が火事と知ったとたんに、いちばん大切にしているもののところへとんでゆく本能がある。これはどうにも制しきれぬ｜衝動《しようどう》で、僕はたびたびこいつを利用したことがある。たとえばダーリントンの｜換《か》え玉事件でも役にたったし、アーンスウォース城事件でもそうだった。人妻なら、何はおいても赤ン｜坊《ぼう》を｜抱《だ》きあげるし、さもなければまず宝石類だ。<br />　そこできょうのあの女だが、家のなかで何よりも大切なものといえば、むろんわれわれのさがし求めている品物以外にあるわけがない。まっさきに、そいつの隠してある場所へかけつけるにきまっている。火事だッという君の声は、いかにも真にせまっていた。そのうえ煙がでたり、人が騒いだりすれば、どんなおちついた女でもあわてるにきまってる。反応は上々だった。写真は、右手のベルのひものすぐうえの羽目板を動かすと、その奥に隠してある。とっさに彼女がそこへいって、半分ばかり出しかけたのを、現にこの｜眼《め》で認めた。<br />　火事ではない、いまのは誤報だとどなってやると、出しかけたのをもどしておいて、花火をちらと見てから、どこかへ走りさったきり姿を見せなかった。そこで僕は起きあがって、うまくその場をつくろって逃げだしてきたのさ。もっとも、すぐ写真に手をつけたものかどうか、ちょっと迷ったが、そのときはいってきた｜馭者《ぎよしや》が、いやにじろじろ僕の顔を見るものだから、あとにしたほうがよかろうと思った。うっかり手を出して、｜軽率《けいそつ》なまねをすると、とりかえしのつかないことになるからね」<br />「それで今後の方針は？」<br />「調査は事実上これで終った。あとはあす、陛下のお供で彼女を訪問するだけだ。よかったら、君もいっしょに｜来《こ》ないか。行くとまず、居間に通されて、しばらく待たされるだろう。だが、彼女が｜支《し》｜度《たく》して出てみたら、もうわれわれもいないし、写真も｜紛《な》くなっているというわけだ。お手ずからあれがとりもどせたら、陛下はことのほかご満足だろうじゃないか」<br />「訪問の時刻は？」<br />「朝の八時としよう。彼女はまだおきていないだろうから、心おきなく仕事ができるというものだ。それにこの｜結婚《けつこん》で、彼女の生活様式も習慣も一変するかもしれないのだから、ぐずぐずしちゃいられない。一刻も早く陛下に電報をうっておこう」<br />　ベーカー街に帰りつき、戸口でホームズがポケットの｜鍵《かぎ》をさぐっているとき、通りすがりに声をかけた者がある。<br /><br />「シャーロック・ホームズさん、こんばんは」<br />　通行人は幾人かあったが、言葉をかけたのは、急ぎ足に遠ざかっていったやせ形に長外套を着た青年だったらしい。<br />「聞きおぼえのある声だ」ホームズは街灯のほのぐらいなかにじっと｜瞳《ひとみ》をこらした。「はて、どこのやつだろう？」<br /><br /><br />三<br /><br /><br />　その晩私はホームズの家に｜泊《とま》った。そして翌朝、コーヒーでトーストをかじっているところへ、早くもボヘミア国王陛下がとびこんでこられた。<br />「もう手にいれたのですか？」<br />　陛下はいきなりホームズの両肩をつかむようにして、せきこんでその顔をのぞきみた。<br />「まだです」<br />「でも望みはあるのだな？」<br />「望みはあります」<br />「では、さア、早く行こうではないか」<br />「馬車を呼ばねばなりません」<br />「それには｜及《およ》ばぬ。余の｜四輪馬車《ブルーム》が待たせてある」<br />「それは何よりでございます」<br />　そこで私たちは家を出て、またもやブライオニー荘へと向ったのである。<br />「アイリーン・アドラーは結婚いたしました」ホームズが馬車のなかでいった。<br />「なに、結婚いたした？　いつ？」<br />「昨日でございます」<br />「相手は？」<br />「ノートンと申すイギリス人で、弁護士でございます」<br />「そんなものをあれが愛するとは思えぬが……」<br />「愛情があってくれればと考えております」<br />「それはまた、何ゆえに？」<br />「将来陛下にご｜迷惑《めいわく》をおかけ申すおそれが絶無になりましょうから。結婚して夫を愛するといたせば、もはや陛下をお｜慕《した》い申すことはございますまい。さすれば、もはや陛下のご意図をお｜妨《さまた》げする理由もございません」<br />「それはそうだ。だがそれにしても……ああ、あれが余とおなじ身分の者であったならば！どんなにか立派な女王になれたであろう！」<br />　陛下はそのままふたたびふさぎこんで、サーペンタイン｜小《こう》｜路《じ》へ来るまで、ついに口をきかれなかった。<br />　来てみるとブライオニー荘の｜玄関《げんかん》はあいていて、一人の｜老《ろう》｜婆《ば》が石段のうえに立って、四輪馬車を降りる私たちを、あざけるような眼つきで見まもっていた。<br />「シャーロック・ホームズさんでございますね？」<br />「私がホームズですが……」彼はやや意外という｜面《おも》もちで、いぶかしげに老婆を見やった。<br />「やっぱりねえ。いえ、奥さまが、あなたさまがたぶんいらっしゃるからとおっしゃいましたが……奥さまは｜旦《だん》｜那《な》さまとご一緒に、今朝ほど、五時十五分の汽車でチャリング・クロス駅から、大陸のほうへお｜発《た》ちでございました」<br />「なに？」ホームズは｜驚《おどろ》きと無念さで顔いろを変えて、たじろいだ。「では、国外へ去ったというのか？」<br />「二度とお帰りにはなりません」<br />「して、あれはどうなった？」陛下は大きな失望に声もかすれていた。「ああ、｜万事休《ばんじきゆう》す！」<br />「調べてみましょう」<br />　ホームズは老女中を｜押《お》しのけて、居間へとびこんだ。陛下と私もそのあとにつづく。｜棚《たな》ははずしたままだし、引出しはあけっぱなしだし、部屋のなかは家具類が乱雑にちらかし放題で、アイリーンが｜逃亡《とうぼう》に先だち、大急ぎでかきまわしたらしいことを物語っていた。<br />　ホームズはベルのところへとんでゆき、小さな引き戸になっている羽目板をむしりとった。そして手を突っこんだと思うと、一葉の写真と手紙とをとりだした。写真は夜会服姿のアイリーンの単身像、手紙のうわがきには「シャーロック・ホームズさまへ、お訪ねあるまで留めおき」と走りがきがしてあった。ホームズがすぐに｜封《ふう》をきったので、私たちは三つの額を集めて読みいった。日付は前夜の十二時とあり、つぎのような文面が｜認《したた》めてあった。<br />　<br /><br /><br />　シャーロック・ホームズさま、お手ぎわはまことにみごとでございました。まんまと｜担《かつ》がれてしまいました。火事の声を聞きますまでは、｜露《つゆ》ほども疑ってはおりませんでした。でもそのあとで、われながらあられもなくおぞましき｜振《ふる》｜舞《ま》いに思いあたり、考えました。あなたさまのことは、久しいまえに注意をうけておりました。王さまがもし｜誰《だれ》かをお｜頼《たの》みになるといたせば、必ずあなたさまにきまっているからと、お｜住所《ところ》まで教えられたのでございます。それだのに私は、お知りになりたいことを、この口から申しあげたのとおなじに、お教えしてしまいました。<br />　｜不《ふ》｜審《しん》をおこしましてからでさえ私は、あのおやさしい親切な牧師さまが、よもやと思ったほどでございます。でも、ご存じのとおりお芝居には慣れておりますし、｜男装《だんそう》をいたすのなど造作もございません。これまでにもよく、そのおかげで気ままにふるまったものでございます。私は馭者のジョンにあなたさまの見はりをさせておき、二階へ｜駆《か》けあがって、散歩服と呼んでおりますが、急いでそれを身につけて降りてみますと、ちょうどあなたさまはお帰りになるところでございました。<br />　それからおあとをしたってお玄関先まで参り、私｜風《ふ》｜情《ぜい》をねらっていらっしゃるのが、有名なシャーロック・ホームズさまにちがいないことを確かめたのでございます。そしてすこしはしたなくはございましたけれど、ご｜挨拶《あいさつ》申しあげて、その足でテンプルに｜良人《おつと》を訪ねてまいりました。<br />　こんなに｜恐《おそ》ろしいかたにねらわれましては、もはや落ちのびるほかないと、良人の意見もおなじでございました。そんなしだいで、明日お訪ねくださいましても、もはやもぬけの｜殻《から》となっておりましょう。写真のことでしたら、どうぞご安心くださいますよう。いまはよりよき良人を得て、愛し愛されている身でございます。王さまには、その｜昔《むかし》つれなきお仕むけあそばした｜端女《はしため》がうえなぞおん心おきなく、｜本望《ほんもう》おとげあそばしますよう。あのお写真はただ私のお守りとして、手もとに留めおきます。この後とも、万一王さまから何か仕むけられでもしましたときの、身を守る武器ともいたしたいだけの思案にございます。別に写真一枚、王様おうけくださいますこともやと、のこしてまいります。<br /><br /><br />めでたくかしこ<br />　　アドラー家の出　アイリーン・ノートン　<br />「何という女だ！　ああ何という！」読み終ってボヘミア国王陛下は｜嘆声《たんせい》をもらした。「だから余が申したではないか、｜明敏《めいびん》で｜果《か》｜敢《かん》な女だと。ああどんなにか立派な｜皇后《こうごう》ができたことであろう。｜釣《つ》りあう身分の者でないのがかえすがえすも残念ではないか！」<br />「私の見うけましたかぎりでは、この婦人は陛下と水準がたいへんちがうかに考えられます」とホームズは冷やかにいった。「私といたしましては、この問題をもっとご満足のゆきますような終局にはこびえなかったのを、｜遺《い》｜憾《かん》にぞんじます」<br />「いや、そんなことはない。申し分のない成功であった。アイリーンの言葉にけっして｜偽《いつわ》りはない。写真はもう、火のなかに投じたのもおなじに安全だ」<br />「そのお言葉で、私も安心いたしました」<br />「余はお礼の申しようもないほどの大恩をうけた。どうして君の労に｜酬《むく》いたらよいか、いうてください。この指輪は――」と陛下がエメラルドいりのへび形の指輪をぬきとって、手のうえにのせてさしだした。<br />「陛下おもちの品で、これよりはるかに貴重と考えられますものがございます」とホームズがこたえた。<br />「何なりと言うがよい」<br />「この写真にございます」<br /><br />　陛下はあっけにとられて、ホームズの顔を見つめられた。<br />「アイリーンの写真を！　よろしい、望みとあらば……」<br />「ありがとうございます。ではもう、ご用もございますまいから、これで失礼いたしとうございます」<br />　ホームズは頭をさげて、陛下のさしのべた手は見返りもせずに、私をうながし、さっさとその場をひきあげたのだった。<br />　<br />　以上が、ボヘミア王国を｜脅《おびや》かした一大｜醜聞《しゆうぶん》事件の報告であり、ホームズの｜巧妙《こうみよう》な計画が、一婦人の機知によって、いかにうち｜挫《ひし》がれたかという話の一条である。ホームズは以前よく、女の｜浅《あさ》｜知恵《ぢえ》と笑い｜囃《はや》したものだが、近ごろはいっこうにそれを聞かなくなった。そしてアイリーンのことや、｜彼女《かのじよ》の写真のことが話に出ると、｜彼《かれ》は必ず「あの｜女《ひと》」という尊称をもってするようになったのである。<br />―一八九一年七月『ストランド』誌発表―</span> ]]>
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<dc:date>2009-08-18T02:30:14+09:00</dc:date>
<dc:creator>柳ちぁん</dc:creator>
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<title>まだらの紐</title>
<description> 　この八年のあいだに、シャーロック・ホームズの｜探偵《たんてい》ぶりを調べては｜控《ひか》えておいた七十余件におよぶ私のノートをくってみると、そのなかには多くの悲劇もあり、喜劇もいくらかはあり、単に｜奇異《きい》なだけのものもたくさんあって、一つとして｜平凡《へいぼん》なものはない。それというのが元来｜彼《かれ》のは財物が目あてで働くのではなくて、どちらかというと自分の仕事への情熱ゆえに出馬するの
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<![CDATA[ <span style="font-size:x-small;">　この八年のあいだに、シャーロック・ホームズの｜探偵《たんてい》ぶりを調べては｜控《ひか》えておいた七十余件におよぶ私のノートをくってみると、そのなかには多くの悲劇もあり、喜劇もいくらかはあり、単に｜奇異《きい》なだけのものもたくさんあって、一つとして｜平凡《へいぼん》なものはない。それというのが元来｜彼《かれ》のは財物が目あてで働くのではなくて、どちらかというと自分の仕事への情熱ゆえに出馬するのだから、｜依《い》｜頼《らい》があってもそれが｜珍《めずら》しい事件、｜怪《かい》｜異《い》な展開を思わせる事件でないと手をつけるのを断わってしまうからである。<br />　しかし、これら数多いさまざまな事件のうちでも、有名なサリー州のストーク・モーランに住むロイロット一門の家族に関する事件くらい、世にも奇怪な様相をもつものは思いだせない。この事件は私がホームズと知りあってから日もまだ浅く、ベーカー街に共同で部屋を借りて独身生活をやっていたころのことである。だからもっと早く発表することができなくはなかったのだが、当時秘密にする｜約束《やくそく》をむすんだので、見あわせていたまでである。約束を｜交《か》わしたその婦人が先月急死したので、約束から解放されることになった。そこでここにその事実の真相を公表するのもまた、悪くはあるまいと考える。というのは、すこしわけがあって知っているのであるが、グライムズビー・ロイロット博士の死に関する取り｜沙汰《ざた》は、真相以上に｜恐《おそ》ろしい流説となって、ひろく世間に誤り伝えられているからである。<br />　一八八三年四月はじめのことであった。ある朝ふと目をさましてみると、シャーロック・ホームズがちゃんと服をつけて｜枕《まくら》もとにつっ立っている。いつもは｜朝《あさ》｜寝《ね》｜坊《ぼう》の彼が、マントルピースの置時計を見ればまだ七時十五分すぎたばかりなのにと私は少々｜驚《おどろ》き、｜眼《め》をぱちくりやりながら、彼を見あげた。いや、規則正しい生活が好きな私のことだから、少々ふくれ｜面《つら》をしていたかもしれない。<br />「ワトスン君、起してすまないね。しかし今朝はみんながそういう運命なんだよ。最初にハドスン夫人が起されて、おかみが｜僕《ぼく》を起す、僕が君を起すという順序なんだ」<br />「どうしたんだい、いったい？　火事かい？」<br />「いや、依頼人だ。若い婦人がひどい興奮状態でやってきて、どうでも僕に面会したいといってるんだそうだ。居間のほうで待たせてあるがね。考えてもみたまえ、若い婦人がこんなに朝早くからロンドン市内をうろつき回って、ぐっすり寝こんでいる他人をたたき起すというのは、よくよくさし｜迫《せま》った事情があって、｜訴《うつた》えなきゃならないのだとわかるじゃないか。そしてこれがもしおもしろい事件ででもあったら、君はきっと最初から関係したかったと不平をいうにきまってるからね」<br />「ありがたい。そんなことなら何をおいても起きるよ」<br />　ホームズの専門的な探偵ぶりを見せてもらい、一見直感かと思うほど｜迅速《じんそく》だが、それでいて立派に理論的な筋道の通っている彼の推断、その推断によって、提示された問題をてきぱきと解決してゆくあざやかな手なみに舌をまくくらい、私にとって｜愉《ゆ》｜快《かい》なことはないのだ。私は手ばやく服を身につけ、それから二、三分ののちにはホームズとともに居間へ降りていった。はいってゆくと、黒い｜喪《も》｜服《ふく》をつけ、厚いヴェールに｜面《おもて》を包んだ一人の婦人が、窓ぎわの｜椅子《いす》から立ちあがった。<br />「おはようございます」ホームズが快活に言葉をかけた。「私はシャーロック・ホームズです。こちらは親友のワトスン博士で、同時に仕事のうえの｜同僚《どうりよう》でもある男ですから、この人のまえでは私同様、どんなことをお話しくださってもさしつかえございません。やア、ハドスン夫人が気をきかせて火をおこしておいてくれましたね。さ、どうぞ火のそばへお寄りください。寒くて｜震《ふる》えていらっしゃるようですが、ただいま熱いコーヒーを頼んで差上げます」<br /><br />「いいえ、寒くて震えているのではございません」婦人はいわれるがままに席をうつしながら、低い声でいった。<br />「ではどうなすったのですか？」<br />「心配のためでございます。恐ろしいからでございます」<br />　こういいながらヴェールをあげたのを見れば、なるほど、気の毒なほど心がうわずっている様子である。顔は｜恐怖《きようふ》に引きつって青ざめ、両の眼は｜狩《か》りたてられた｜野獣《やじゆう》のように、おどおどとおびえて、まったくおちつきがない。顔やからだつきから見れば三十くらいなのに、頭にはもう｜白《しら》｜髪《が》がまじり、｜疲《つか》れはてやつれた顔をしている。シャーロック・ホームズは理解のはやい｜一瞥《いちべつ》を投げて、「けっしてご心配はありません」と前かがみになって｜彼《かの》｜女《じよ》の｜前腕《まえうで》を軽く｜叩《たた》きながら｜慰《なぐさ》めた。「｜大丈夫《だいじようぶ》、じきに｜万《ばん》｜事《じ》解決してあげます。今朝汽車でお着きになったんですね？」<br />「では私をご存じでいらっしゃいますの？」<br />「いいえ、そうじゃありませんが、あなたの左の｜手袋《てぶくろ》の｜掌《てのひら》に、｜往復切《おうふくきつ》｜符《ぷ》の帰りの分が見えますから。駅までは小さい二輪馬車でいらしたけれど、遠いうえに道が悪いから、かなり早くお宅をお出になったのでしょうね？」<br />　婦人は非常に驚いた様子で、不思議そうにホームズの顔をまじまじとながめた。<br />「いや、べつに不思議はないのです」とホームズはにこにこしながらいった。「あなたのジャケットの左の腕には、ちょっと見ても七つ以上ははねがあがっています。しかも新しいはねです。そういうところへはねのあがる乗りものといえば、二輪馬車に乗って、｜馭者《ぎよしや》の左がわへ｜腰《こし》をおろしたときにかぎるのです」<br />「その理由はともかくも、おっしゃることに｜間《ま》｜違《ちが》いはございません。私は今朝六時に家を出て六時二十分にレザーヘッドへ着き、一番の汽車でウォータールーへ参ったのでございます。私はもうこの心の重荷に｜耐《た》えることができなくなりました。このまま気を張りつめていれば、｜発狂《はつきよう》してしまいます。｜頼《たよ》りになる人は一人も――いいえ、たった一人だけ私のことを気にかけてくれますはずの者がございますけれど、困ったことにこれがさっぱりあてになりません。<br />　あなたのお｜噂《うわさ》はかねてファリントッシュ夫人から、あのかたにたいへんお困りの問題がおこりましたとき、あなたが助けておあげになりましたとかで、あの夫人から｜承《うけたまわ》っておりました。それで夫人からこちらのお宅を教えていただいてまいったのでございます。どうぞホームズさま、私もお助け願いとうございます。私をとりまいていますこのまっ暗な｜闇《やみ》に、せめてすこしなりとあかりを投げてはくださいませんでしょうか。ただいまのところでは、お礼と申しましても私の力には｜及《およ》びませんけれど、一、二カ月のうちには｜結婚《けつこん》いたすはずで、そのうえは私の収入も自由になりますから、必ずお礼はいたすつもりでございます」<br />　ホームズは自分の机へ身体をねじ向けて、｜鍵《かぎ》を使って引出しから小さな事件録をとりだした。<br />「ファリントッシュ夫人と――ああこれだな。思いだした。オパールの｜頭飾《あたまかざ》りに関する事件だった。これはたしかワトスン君といっしょになるまえのことだ。――ええと、それではファリントッシュ夫人同様に、喜んであなたの事件を専心解決させていただきましょう。｜報酬《ほうしゆう》のことですが、私には仕事そのものが報酬なのです。けっしてご心配には及びません。ただご都合のよいとき、かかった実費だけ支払っていただけば結構です。それではどうぞ、どんなことが判断の材料となるかもしれないのですから、細大もれなく｜詳《くわ》しい事情をお話しください」<br />「ああ！　申しあげますけれども、私がいちばん恐ろしいことは、私の不安がいかにも｜漠《ばく》｜然《ぜん》としておりますし、｜疑《ぎ》｜惑《わく》と申しましても人さまの眼にはさぞ｜愚《おろ》かなこととしかうつらないだろうと思われますほど、ほんの｜些《さ》｜細《さい》なことに根ざしておりますので、ほかの人ならばともかく、とくに私としては助けていただくのが当然のあのかたまでが、私の申すことをただ神経質な女の｜妄想《もうそう》としか思ってくださらないことでございます。いいえ口に出してそうはおっしゃいませんけれども、慰めてくださるお言葉や、目をおそらしになる様子で、私にはよくわかるのでございます。でもホームズさま、あなたは人の心のなかのいろいろな｜邪悪《よこしま》さをお見ぬきになるかただとうかがっております。ひしひしと私の身をとりまくこの危険のなかを、どう歩いてゆけばよろしいのか、あなたならばきっとお教えくださるにちがいございません」<br />「ふむ、それで？」<br />「私はヘレン・ストーナーと申します。ただいまのところ義理の父といっしょに｜暮《くら》しておりますが、彼はイングランドでもいちばんふるいサクソン系の｜家柄《いえがら》になっていますサリー州の西境の、ストーク・モーランのロイロット一門の最後の一人でございます」<br />「そのお名前はよく存じておりますよ」ホームズはうなずいてみせた。<br />「一族はある時代にはイングランド｜屈《くつ》｜指《し》の｜富《ふ》｜豪《ごう》で、領地は州境を｜越《こ》えて北はバークシャー州、西はハンプシャー州までもひろがっていたのでございます。でも前世紀に｜放埒《ほうらつ》な当主が四代もつづきましたうえに、最後が｜賭《と》｜博《ばく》ずきの当主で、とうとう｜摂政殿下《せつしようでんか》の時代になって、一族はまったく｜零落《れいらく》してしまいました。そしてあとにのこったのは二百年来の古い｜屋《や》｜敷《しき》と二、三エーカーの土地だけ、その屋敷もたくさんな借金の｜抵当《ていとう》にはいっている始末でございます。<br />　先代の当主と申しますのは、その屋敷で｜貧《びん》｜乏《ぼう》｜貴《き》｜族《ぞく》の｜悲《ひ》｜惨《さん》な生活を送っていましたが、そのたった一人の｜後嗣《あととり》であります私の｜継《けい》｜父《ふ》は、一家がそうなってしまった以上いつまでも貴族の｜坊《ぼつ》ちゃんでいてはならないと、｜親戚《しんせき》から学資をたてかえてもらいましてどうにか医者の学位をとりました。そしてインドのカルカッタへ参りまして、そこで自分の｜技倆《ぎりよう》と人格の力で医者を開業しましてかなり｜盛大《せいだい》にやっておりました。でも家のなかでしきりと物が｜紛失《ふんしつ》するのに｜癇癪《かんしやく》をおこしまして、あるとき現地人の｜執《しつ》｜事《じ》をひどく｜殴《なぐ》りましたのが、運わるくその者が死んでしまいましたので、すんでのことで｜死《し》｜刑《けい》になるところを、ようやく助かりました。でも長期の｜入獄《にゆうごく》をしましたので、むっつりした失意の人として内地へ帰ってまいりました。<br />　ロイロット博士――継父はインドで私の母と結婚いたしました。母はベンガル｜砲兵隊《ほうへいたい》のストーナー少将の若い未亡人だったのでございます。私にはジュリアと申す｜双生児《ふたご》の姉がございまして、母の再婚のとき私たちは二｜歳《さい》の赤ン坊でございました。母はたいへんお金持で一年に千ポンド以上の収入がございましたが、その財産はそっくり父にゆずってしまいました。もっともそれは私たち姉妹が父といっしょに暮していますあいだのことで、もし私たちが結婚いたせば毎年一定のお金をくれるという約束になっておりました。<br />　内地へ帰ってまいりますとまもなく、母が｜亡《な》くなりました。母はクルーのちかくで鉄道事故のため亡くなりましたので、いまから八年まえのことでございます。それでロイロット博士はロンドンでの開業の計画をすてて、私たちをつれてストーク・モーランの先祖代々の家に帰って住むことになりました。母の｜遺《のこ》しました財産で日々の生活に不自由はすこしもございませず、私たちの幸福の｜妨《さまた》げになるものは何一つないかに見えました。<br />　ところがこのころから父の気質に恐ろしい変化がおこりました。友達を作るでもなく、ストーク・モーランのロイロット家の主人が久しぶりに帰ってきて、古い家に住むようになったというので、最初のほどは狂喜してくれました近所の人たちと交わるでもなく、まったく家のなかにとじこもってばかりいまして、ときたま外出したと思いますと、｜路《みち》で出あった人と相手選ばずひどい｜喧《けん》｜嘩《か》をいたします。狂気にちかいほど気の｜荒《あら》いのは、ロイロット家の血筋でございますが、父のは久しいあいだ熱帯地方におりましたので、いっそうそれがひどかったのでございましょう。お話にもなりませんような喧嘩がしょっちゅうでございましたが、なかでも警察沙汰にまでなりましたのが二度ございますし、おしまいには村人たちの恐怖の的になってしまいまして、人々は父の姿を見ますととんで｜逃《に》げるようになりました。何しろおそろしく力の強い人で、｜怒《おこ》るとまるで手がつけられなくなるからでございます。<br />　先週も父は村の｜鍛冶屋《かじや》を｜欄干《らんかん》から川へ｜突《つ》きおとしましたが、かき集めましたお金を洗いざらい出しまして、やっと私が内分にしてもらいました。父には｜漂泊《ひようはく》のジプシーの群れしか友達と申すものはございません。ロイロット家の領地としてのこっておりますわずか二、三エーカーの｜茨《いばら》の｜生《お》い｜茂《しげ》る土地のなかに、自由にテントをはることを許してやりまして、その代りに父は彼らのテントの客分になり、彼らの仲間にはいってときどき何週間もつづけて諸方を漂泊して歩くのでございます。それからまた父はインドの動物をたいへんかわいがりまして、手紙をやってはるばる取りよせるのでございますが、ただいまもインドで｜鹿《しか》｜狩《が》りに使います｜豹《ひよう》が一頭と｜狒々《ひひ》が一｜匹《ぴき》おります。それを父は自由に屋敷のなかに放しておきますものですから、村の人たちはその飼主とおなじくらいに｜怖《おそ》れております。<br /><br />　いままでお話し申しあげましただけで、死んだ姉ジュリアと私の生活がけっして楽しいものでなかったのは、おわかりくださいますでしょう。｜召使《めしつかい》たちも一人としていつきませんので、いままで久しいあいだ私たち姉妹が家のこと｜万端《ばんたん》見てまいったのでございます。姉の死にましたのはまだ三十のときでございますのに、それでも私のとおなじにもう髪が白くなりかけておりました」<br />「では姉上はお亡くなりなのですね？」<br />「はい、ちょうど二年まえでございます。そして私のお聞きねがいたく存じますのも、この姉の死についてでございます。ただいま申しあげましたような生活を送っておりました私たちが、年ごろや身分の｜釣《つ》り合うお方にお目にかかる機会が、ほとんどあるわけのないのはおわかりくださいますでしょう。でも私たちにはホノリア・ウェストフェールと申しまして、母の妹でハローの近くに住んでおります未婚の叔母が一人ございまして、ときどきこの叔母をちょっとだけ訪ねることを許されておりました。<br />　二年まえのクリスマスに、ジュリアはこの叔母のところへ参りまして、そこで休職中の海兵隊｜少佐《しようさ》のおかたと知りあって婚約ができました。姉は帰りましてからそのことを父に申しましたが、父はべつに反対いたしませんでした。でも結婚式をあげることにきめてありました日まであと二週間という時になりましてから、恐ろしいできごとがありまして、そのため私はたった一人の姉を失ってしまったのでございます」<br />　シャーロック・ホームズは眼をとじて椅子によりかかったまま、頭をクッションに｜沈《しず》めてじっと話に聞きいっていたが、このとき細く眼をあけてヘレン・ストーナー｜嬢《じよう》のほうをちらりと見た。<br />「どうぞそのときの様子を正確にお話しください」<br />「あのときの恐ろしいことは、すべてはっきり私の｜記《き》｜憶《おく》に焼きついていますから、すこしも間違いなく正確に申しあげられます。屋敷はさきほども申しあげましたとおり、たいへんふるいものでございまして、ただいま使っていますのは、そのうちの一｜棟《むね》だけでございます。そこは｜寝室《しんしつ》が階下にございまして、居間はその棟とは別の｜母《おも》｜屋《や》の一部になっております。寝室は手前が父、つぎが姉、そのつぎが私ということになっておりました。三つの寝室はたがいに｜往《ゆき》｜来《き》はできませんけれども、入口はおなじ｜廊《ろう》｜下《か》にございます。――おわかりでございますか？」<br />「よくわかります」<br />「窓のそとは｜芝《しば》｜生《ふ》でございまして、その悲しみの晩、ロイロット博士は早くから寝室へはいりましたが、姉は父の常用しています強いインドタバコの｜匂《にお》いに｜悩《なや》まされましたそうで、まだやすんではいなかったことがわかります。あまり匂いが強いので姉は自分の部屋を出て私のところへ参り、結婚式のことなどしばらく話しておりました。十一時になりましたので姉は立ちあがって帰りかけましたが、ふと戸口で立ちどまって、こんなことを申しました。<br />『ねえヘレン、あなた真夜中ごろに｜誰《だれ》かが｜口《くち》｜笛《ぶえ》を｜吹《ふ》くのを聞かなくって？』<br />『いいえ！』<br />『私ね、まさかあなたが｜眠《ねむ》ってて口笛を吹けるわけもないと思うんだけど……』<br />『むろんだわ。でもどうして？』<br />『このごろ毎晩夜中の三時ごろに、低い口笛がはっきり聞えるんですもの。私目ざとい｜性《しよう》｜分《ぶん》だものだから、それで眼がさめるのよ。どこで吹くんだか、はっきりしないんだけど、｜隣《となり》の部屋か、それとも芝生かもしれないわ。だからあなたも聞いたかどうか、ちょっと｜尋《たず》ねてみたの』<br />『いいえ私聞いたことないわ。きっとあのいやなジプシーが森のなかで吹くのよ』<br />『そうかもしれないのね。でも芝生で吹くのだとすると、あなたが聞かないのは変ね』<br />『でもそりゃア私、お姉さまより寝坊なんですもの』<br />『そうね、どっちにしてもたいしたことではないわよ』<br />　姉はにっこり｜笑《え》｜顔《がお》を見せて、私の部屋の戸をしめました。そしてすぐに姉が自分の部屋へ帰って、ドアに鍵をかけるのが聞えました」<br />「なるほど。あなたがたは毎晩、お部屋に鍵をかけておやすみになる習慣でしたか？」<br />「はい、いつもそうしておりました」<br />「それはまたなぜですか？」<br />「父が豹と狒々を｜飼《か》っていますことは申しあげたと思いますが、鍵をかけませんと安心して寝つかれなかったのでございます」<br />「それはごもっともです。どうぞその先をお話しください」<br />「その晩私は｜妙《みよう》に眠れませんでした。よくないことでもおこりそうな、漠然とした不安にわけもなく｜胸騒《むなさわ》ぎがいたします。ジュリアと私とは先ほども申しあげましたように双生児でございました。ご存じでもございましょう、血のちかい双生児の｜魂《たましい》がどんなに｜微妙《びみよう》に働きあいますか、それは｜恐《おそ》ろしいほどでございます。<br />　その晩はひどい｜荒《あ》れで、そとには風がひゅうひゅう吹きすさび、雨がざんざと窓を打っておりました。｜寝《ね》｜床《どこ》のなかで小さくなっていますと、このはげしい｜嵐《あらし》のざわめきのなかにとつぜん、恐ろしい女の｜叫《さけ》び声が聞えました。姉の声だとすぐ気がつきましたから、私はとび起きざまとっさにショールを｜肩《かた》にまきつけて、廊下へ走り出ました。そのとき――ちょうどドアをあけたときでございますが、寝る前に姉が申しておりましたような低い口笛を一声聞いたように思います。と、つづいてガチャンと何か重い金物でも落ちたような音がいたしました。<br />　廊下を｜駆《か》けだしてゆきますと、姉の部屋のドアの鍵を回す音がいたしまして、ドアがすうっと静かに開きます。何が出てくるのかと、おそるおそる見ておりますと、姉が戸口へ出てきましたのが廊下のランプの光で見えました。姉は恐ろしさでまっ青になり、何か助けを求めでもするように両手であたりをさがしまわり、からだは｜酔《よ》いどれのように前後にゆらゆらしながら立っています。私はすぐに駆けよって両手で｜抱《だ》きとめました。それといっしょに姉は｜膝《ひざ》がきかなくなりましたのか、へなへなとその場へ｜倒《たお》れてしまいました。そしてどこかひどく痛むらしく、はげしく身もだえして、手足をおそろしく｜痙攣《けいれん》させております。はじめ姉には私がわからないのかと思いましたが、かがんで抱き起そうといたしますと、とつぜん、恐ろしい声で叫びました。<br />『ああこわい！　ヘレン、｜紐《バンド》よ！　まだらの紐よ！』<br /><br />　あのときの姉の声はいまでも耳の底にのこっています。一生忘れることはございますまい。<br />　それから姉はまだもっと何かいいたそうに、父の部屋のほうを高く、指で突きさすように指さしましたが、またしても痙攣がおこって口はきけませんでした。私は大きな声で父を呼びながら、部屋を駆けだしてゆきましたが、廊下で、ガウンを着た父が出てくるのにばったり出あいました。いっしょに姉のところへもどってみますと、姉は気絶しておりました。父は姉の口をわってブランディを注ぎこんだり、村へ医者を呼びにやったりいたしましたが、すべて効なく、姉はそのままいちども意識を回復することなしに、しだいに｜衰弱《すいじやく》が加わってとうとう死んでしまいました。これが愛する姉の恐ろしい｜最《さい》｜期《ご》でございます」<br />「ちょっとお待ちください。口笛と金物の落ちる音とは、たしかにあなたがお聞きになったのですね？　｜誓《ちか》って間違いございませんね？」<br />「そのことは｜検《けん》｜屍《し》のとき、州検屍官からもお尋ねがございました。たしかに耳にしたとは思いますけれども、何しろ恐ろしい嵐の晩で、それに家がふるくてみしみし鳴っていましたし、あるいは何かの間違いかもしれませず、断言はいたしかねます」<br />「姉上は服をつけておいででしたか？」<br />「いいえ、｜寝衣姿《ねまきすがた》でございました。そして右の手にはマッチの燃えさしを一本、左にはマッチの箱をもっておりました」<br />「何か｜不《ふ》｜審《しん》なことがあったので、マッチをすってあたりを見ようとなすった｜証拠《しようこ》です。これは重要なことです。それで検屍官は何と決定を｜与《あた》えましたか？」<br />「ロイロット博士の行状が、州内でも久しく悪評の的となっておりましたのですから、検屍官のお調べはずいぶん綿密でございましたけれども、死因についてはとうとう満足な解答が得られませんでした。姉の部屋のドアに内から鍵のかかっていましたことは、私の証言でたしかでございますし、窓は太い鉄棒のついた旧式の｜鎧戸《よろいど》がございまして、毎晩内から｜締《しま》りをいたすことになっておりました。四方の｜壁《かべ》も注意してたたいてみましたけれど、一カ所とてゆるみはございませず、｜床《ゆか》もそのとおりでございました。｜煙突《えんとつ》は太いのでございますが、｜壺釘《つぼくぎ》の大きいのが四本も｜埋《う》めこんでございますから、人の出入りなんか思いもよりません。と申すわけでそのとき部屋のなかにいましたのは、姉が独りだけだったことは疑いないのでございます。それに姉のからだには、どこにも傷らしいものは一つも見あたらなかったのでございます」<br />「毒殺の疑いはなかったのですか？」<br />「｜幾人《いくにん》ものお医者様が調べましたけれど、だめでございました」<br />「であなたは、お気の毒な姉上はなんでお亡くなりになったとお考えですか？」<br />「ただ恐ろしさのために――神経にはげしいショックをうけたためだと存じます。何をそんなに恐れましたのですか、それはわかりませんけれども」<br />「そのころ庭の植えこみに、ジプシーは来ていたのですか？」<br />「はい、たいていいつでもすこしはいます」<br />「ははあ、それで姉上のおっしゃった｜紐《バンド》――｜まだらの紐《スペクルド・バンド》というお言葉について、何か思いあたることでもありませんか？」<br />「それについて、あるときはただ｜夢中《むちゆう》で口走った｜譫言《うわごと》かしらとも考えてみましたり、またあるときはバンドとは紐のことでなく団体の意味ではないか、団体としますとさしずめ植えこみのジプシーのことかもしれないなどと考えたこともございます。でもそれにしましては、｜まだら《スペクルド》と申す言葉が変でございます。ジプシーたちは多く頭にぽちぽち模様のハンカチをまいておりますから、それのことを申したのでございましょうか？　私にはわかりかねます」<br />　ホームズはひどく｜腑《ふ》に落ちないところのある様子で頭を｜振《ふ》りながらいった。<br />「こいつはうかつな判断は下されません。どうぞその先をお話しください」<br />「それから二年、つい最近まで私は以前にもまして｜寂《さび》しく暮してまいりました。でもちょうど一カ月まえに、数年まえから知りあっていた親しいおかたから、私は｜結婚《けつこん》の申しこみをうけたのでございます。お名前はアーミテージ――パーシー・アーミテージさんと申しまして、レディング市にちかいクレーン・ウォーターのアーミテージ家の次男なのでございます。父にもこの｜縁組《えんぐみ》に異議はございませんから、春のうちには式をあげるはずになっております。<br />　ところが一昨日から私の家では西の棟の｜修《しゆう》｜繕《ぜん》がはじまりまして、私の寝室は壁に穴があきましたので、仕方なく私は姉の亡くなりました部屋へ、ベッドも姉の使っていましたのをそのままに、引移らなければならなくなりました。そして昨夜でございます。横になったまま姉の恐ろしい運命のことなど考えておりますと、真夜中の静けさのなかにふと、姉の死の予告となりましたあの恐ろしい口笛がかすかに聞えたのでございます。そのときの恐ろしさをどうぞお察しくださいませ。私はとび起きてランプをつけてみましたが、部屋のなかにはベつに｜怪《あや》しいものも見あたりません。でも恐ろしくて二度と寝床へはいる気はいたしませんから、そのまま着物をつけまして、夜のあけるのを待ってそっと｜抜《ぬ》けだし、向いのクラウン旅館で小さい馬車を｜頼《たの》みましてレザーヘッドへ参り、こうしてあなたにお助けを願いにうかがったようなしだいでございます」<br />「それはたいへん｜賢明《けんめい》でした。ですがお話はそれですんだのですか？」<br />「はい、すっかり申しあげました」<br />「いいえ、まだあります。あなたはお父さんを｜庇《かば》っていらっしゃるでしょう、ロイロットさんを？」<br />「あら、何をでございますの？」<br />　返答する代りにホームズは、ストーナー嬢の｜袖口《そでぐち》の黒いレース｜飾《かざ》りをめくって、膝のうえにおいた手をむきだしにした。その白い手首には五つの点が――明らかに五本の指のあとと見られる｜紫《むらさき》いろの｜斑点《はんてん》がまざまざと見られたのである。<br />「ずいぶん｜残酷《ざんこく》な｜扱《あつか》いをうけていらっしゃるんですね」<br />　ストーナー嬢はまっ赤になって、傷ついた手首を｜隠《かく》しながらいった。「父はきびしい人でございます。たぶん自分の力の強いのがわからないのでございましょう」<br />　それから長いあいだ｜沈黙《ちんもく》がつづいた。そのあいだホームズは両手に｜顎《あご》をのせて、燃えさかる火のなかをじっと見つめていた。<br />「これは非常にむずかしい事件だ。まずどういう行動をとるか、その方針をきめるまえに知っておきたい点がたくさんあります。といって一刻も｜放《ほう》っておくわけにはゆかない。ええと、きょうこれからストーク・モーランへ参ったら、父上に知られないようにそのお部屋を見せていただくことができましょうか？」<br />「父は何ですかたいへん大切な用事があるとかで、きょうはロンドンへ出てまいると申しておりました。帰りはたぶん夕方でございましょうから、いらしてくださってもお｜妨《さまた》げになるような心配はございますまい。いま家政婦が一人来ておりますけれど、これは年寄りですこし足りない女でございますから、お｜邪《じや》｜魔《ま》になりませんようにいたすのは造作もございません」<br />「それはよい都合です。ワトスン君、行くのはいやじゃあるまいね？」<br />「いやなことなんかあるものか！」<br />「じゃ二人で行きます。あなたはこれからどうなさいますか？」<br />「せっかくロンドンへ出てまいりましたのですから、用事を一つ二つ足して帰りたいと存じます。でもいらしてくださいますのに間にあいますように、十二時の汽車で帰ることにいたします」<br />「ではお｜午《ひる》すぎには｜伺《うかが》います。私もそれまでにしておく用事がありますが、すこしお待ちくださって、朝食をあがっていらっしゃいませんか？」<br />「いいえ、すぐにおいとましなければ。すっかり打ちあけてお願いしましたら、重荷をおろしたような気がいたします。それでは午後お目にかかりますのを楽しみに、お待ち申しております」<br />　ストーナー嬢は厚い黒のヴェールを顔に降ろして、静かに部屋を出ていった。<br />「ワトスン君、この事件をどう思うね？」ホームズは｜椅子《いす》の背にからだをもたれさせながらいった。<br />「こんな不可解きわまる気味のわるい事件はないと思う」<br />「まったく不思議な、気味のわるい事件だ」<br />「あの婦人のいうように、床にも壁にもまったく異状がなく、ドアも窓も内から締りがしてあり、煙突も｜潜《もぐ》れないとすれば、｜奇《き》｜怪《かい》な死をとげたその姉というのは、当時まったく独りで部屋にいたものとしか思えないからねえ」<br />「そうすると｜夜《よ》な夜な聞える口笛や、死にぎわに姉の｜唇《くちびる》をもれたという妙な言葉はどうなるかね？」<br />「｜僕《ぼく》にはまるで見当もつかない」<br />「夜の口笛や、老博士と仲のよいジプシーの｜集団《バンド》がちかくにいること、｜娘《むすめ》たちの結婚を妨げたほうが老博士には有利な理由のあること、姉が死にぎわにバンドといったこと、妹のヘレン・ストーナーが金物の落ちたような音を聞いたことというふうに考えてくると、この最後の物音は窓の鎧戸の鉄棒がガチャンともとのところへおさまった音だと考えて考えられなくはないから、どうもその方面に解決を求めるのが、かなり｜根拠《こんきよ》ある考えかたじゃないかと僕は思うね」<br />「だってそれじゃ、ジプシーがどんなことをしたというんだい？」<br />「そこまでは僕にもわからない」<br />「僕はそんな説明にはいくらでも異議が申し立てられるよ」私は反対した。<br />「じつは僕だってそうだがね。だからこそきょうストーク・モーランまで出かけようというのさ。その異議が絶対的なものであるか、それともうまく説明のつけられるような性質のものか、それを調べに――おや！　これはどうしたというのだ？」<br />　ホームズが｜頓狂《とんきよう》な声をあげたのは、このときとつぜんドアが｜荒々《あらあら》しくあけられて、入口に｜蓋《ふた》でもしたように大きな男がぬっと立ちはだかったからである。黒のシルクハットに長いフロックを着こみ長いゲートルをつけて、手にした｜狩猟用《しゆりようよう》の｜鞭《むち》を振っているという、医者ともつかず農事家ともつかぬあいのこの、一種奇妙な｜服装《ふくそう》をしている。背のたかいことはかぶっている｜帽《ぼう》｜子《し》が入口の｜鴨《かも》｜居《い》とすれすれで、｜横幅《よこはば》もそれにつれてほとんど入口いっぱいあるかと思うばかり、｜皺《しわ》だらけの日にやけた大きな顔には、世にも恐ろしい表情が刻まれている。｜憤《ふん》｜怒《ぬ》に燃える落ちくぼんだ｜眼《め》、肉うすのたかくて細い鼻などの感じから、どこか肉食の｜猛鳥《もうちよう》といった印象を与えるその恐ろしい顔が、私たちを｜交《こう》｜互《ご》ににらみまわした。<br />「どっちがホームズだ？」<br />「私です。どうもお見それいたしました」とホームズが静かにいった。<br /><br />「わしはストーク・モーランのグライムズビー・ロイロット博士じゃ」<br />「おお、博士でしたか。どうぞおかけください」ホームズはおだやかである。<br />「｜腰《こし》なんかかけるもんか。わしの義理の娘がここへ来よったはずじゃ。あとをつけてきたんじゃから｜間《ま》｜違《ちが》いはない。娘は何をしゃべりおったんじゃな？」<br />「このお寒さはすこし不順のように思われますね」<br />「何をしゃべりおったかというに！」老博士は｜烈《れつ》｜火《か》のごとくに｜怒《おこ》ってどなった。<br />「でもクロッカスのできはごく良いとか申します」ホームズは｜依《い》｜然《ぜん》としてうそぶいた。<br />「うむ！　はぐらかすつもりじゃな！」と客は一歩前へすすんで、鞭をぶんぶん振りまわしながら叫んだ。「こら悪人！　わしはちゃんと知っとるぞ！　人に聞いてまえから知っとるんじゃ。お前はおせっかい者のホームズじゃないか！」<br />　ホームズは微笑をもって｜報《むく》いた。<br />「ホームズの出しゃばり屋め！」<br />　ホームズはいよいよ｜相好《そうごう》をくずした。<br />「警視庁の小役人のくせに、何事じゃ！」<br />　ホームズはとうとうふきだしてしまった。<br />「あなたのおっしゃることはたいへんおもしろいですね。しかしどうもすうすう風がはいって困りますから、そこをしめてお帰りが願いたいです」<br />「帰れといわれんでも、いうだけのことを言ってしまえば、こんなところにおるもんか！他人のことに余計なおせっかいをするのはやめてもらいたいんじゃ。ストーナーの娘のやつがここへ来おった。ちゃんと｜突《つ》きとめとるんじゃ。わしと争うのは危ないから気をつけるがよい。よいか、そら！」と｜彼《かれ》はつかつかと｜暖《だん》｜炉《ろ》のところへきて、鉄の太い｜火《ひ》｜掻棒《かきぼう》をつかむなり、大きな黒い手でぐいと｜飴《あめ》のように曲げてみせた。<br />「このとおりじゃから、わしにつかみ殺されぬように気をつけることじゃ」<br />　ロイロット博士は口ぎたなく｜罵《ののし》って、曲げたなりの火掻棒を暖炉のなかへたたきこんでおいて、ゆうゆうと出ていった。<br />「ずいぶん｜愛嬌《あいきよう》のある｜爺《じい》さんだね」ホームズは笑いながら、「あんなにからだこそ大きくはないが、あわてて帰らないでもうすこしいてくれたら、僕だってけっして彼より弱くはないところを見せてやったのにねえ」と火掻棒を拾いあげ、ぐいと力をいれてもとどおりまっすぐにのばした。<br />「ふふふ、僕を警視庁の役人と混同していばっているなんて、おもしろいじゃないか。こいつは事件に一服の｜薬《やく》｜味《み》を｜添《そ》えてくれたというものだ。それにしてもあのかわいそうな女性があいつにあとをつけさせたのはすこし｜軽《けい》｜率《そつ》だったが、そのためあいつにいじめられなければいいがねえ。ところでこっちは朝食にしようじゃないか。食後に僕はちょっと登記所まで行ってきたい。何か役にたつ資料が得られると思うんだ」<br />　ホームズが外出から帰ってきたのは一時にちかかった。見るとぬき書きや数字をいっぱい書きこんだ青い｜紙《し》｜片《へん》を一枚手にしている。<br />「死んだ細君の｜遺言状《ゆいごんじよう》というのを見てきたよ。そしてその意味を正確に決定するためには、投資遺産の現在価格を調べなければならなかったが、細君の死亡当時は年収一千百ポンドにちかかったけれど、いまは農産物価格が下落しているため七百五十ポンドに満たない。娘は結婚すれば毎年一人まえ二百五十ポンドだけもらう権利がある。だから一人の娘が結婚してさえ大きな｜打《だ》｜撃《げき》なのに、もし二人も結婚された日には、あの大入道、それこそみじめなことになるのは知れている。<br />　したがってあの男としては、なるべく結婚は妨げたいという強い動機のあることがわかったから、午前中つぶしたのはけっしてむだ骨ではなかったというものだ。ワトスン君、こいつは｜怠《なま》けてなんかいられないよ。ことに僕らが事件に関係したことをあの老人が知ってしまったんだからね。用意がよければ、すぐウォータールー駅までタクシー馬車をとばそう。ポケットにピストルを｜忍《しの》ばせていってくれるとありがたいな。｜鋼《はがね》の火掻棒を飴のように曲げてみせる男にゃ、イリーの二号ピストルくらいはないと話になるまいよ。ピストルと歯ブラシだけ用意してゆけば、たいてい間にあうだろう」<br />　ウォータールーへ行ってみると、ちょうどレザーヘッド行の列車に間にあった。レザーヘッドからは駅の宿屋で小さい馬車を｜雇《やと》って四、五マイル、サリー州の美しいいなか道をゆられていった。<br />　申し分のない上天気で、｜陽《ひ》はうららかに照りわたり、空にはふわふわした羊の毛のようなうすい雲が二つ三つ、｜遠近《おちこち》の｜樹々《きぎ》や｜路《ろ》｜傍《ぼう》の｜生垣《いけがき》も春を告げる新緑の若葉がもえいでて、空気は好ましい土の｜香《か》にみちている。この希望にみちた楽しい春の｜象徴《しようちよう》と、そのためにこそいま馬車を｜駆《か》っている私たちの奇怪な使命とは、すくなくとも私にとっては異様に感じられる対照であった。けれどもホームズはそんな感傷に｜捕《とら》われる様子もなく、馬車の前の席にじっと｜腕《うで》｜組《ぐ》みして、帽子をまぶかにかぶり、顎が胸につくほどうなだれて深い黙想にふけりつづけていたが、とつぜん、はっとからだを起すとともに私の｜肩《かた》をたたいて、牧場のかなたを指さした。<br />「あれ、見たまえ」<br />　そこは立木の多い庭園が、ゆるやかな｜傾斜《けいしや》をなして向うへのぼっており、その頂のあたりがこんもりと森になっていた。そしてその｜枝《えだ》｜葉《は》のあいだから、非常にふるい｜屋《や》｜敷《しき》の灰いろの｜破風《はふ》と高い｜棟《むな》｜木《ぎ》とがのぞいてみえた。<br />「ストーク・モーランだろう？」ホームズがきいた。<br />「へえ、あれがグライムズビー・ロイロット博士のお宅でごぜえますだ」｜馭者《ぎよしや》が教えてくれた。<br />「あそこで改築工事をしているはずだから、そこまで行ってもらいたい」<br />「あっちに村がごぜえますだ」馭者は左手にすこしはなれていくつかの屋根の見えるのを指さしていった。「だがおめえさまら、あの家さ行きたいだらこの段々さのぼって、畑のなかの｜作道《さくみち》づたいに行かっしゃるとちかいだ。ほら、あの｜女衆《おなごしゆ》の歩かっしゃるところをな」<br />「やあ、あの女性はストーナー｜嬢《じよう》らしいな」ホームズは小手をかざして、「そうだ、お前さんのいうとおりにしたほうがよさそうだ」<br />　そこで私たちは馬車を降り、賃金を｜払《はら》ってやった。馬車はすぐに、もときたほうへと引返していった。<br /><br />「馭者にわれわれを建築技師か何かだと思わせておくのもよかろうと思ってね。そうしておけば余計な｜噂《うわさ》のたつのが防げるというものだ」といいながらホームズは｜喘《あえ》ぎあえぎ段々をのぼった。「やあストーナーさん、ちゃんとお｜約束《やくそく》どおり来てあげましたよ」<br />　ストーナー嬢はうれしさを｜面《おもて》に現わして、駆けよってきた。<br />「ずいぶんお待ち申しておりました。何もかもよい都合でございます。ロイロット博士はロンドンへ参りまして、晩でなければ帰りそうもございません」<br />「博士とはもうすでにお近づきの光栄を得ましたよ」とホームズが、｜彼女《かのじよ》の帰ってからのできごとを手短かに話して聞かせると、彼女はみなまで聞かぬうちに唇までまっ青になった。<br />「まア！　では私のあとをつけたんでございますわ」<br />「そうらしいです」<br />「父はそりゃあ｜悪賢《わるがしこ》いんでございますよ。ですから私きっと一生びくびくしとおすんでございますわ。帰ってまいりましたら、何と申して私をしかりますでしょう？」<br />「父上はご自身の｜警戒《けいかい》が必要ですよ。父上よりも賢い者が、つけねらっていますからね。今晩あなたはお部屋に｜鍵《かぎ》をかけて、｜避《さ》けていらっしゃるのです。それでも乱暴なさるようでしたら、私たちがハローのおばさんのお宅まで送り届けてあげます。ところでできるだけ時間を有効に使わなくてはなりません。さあどうぞ、調べるはずのお部屋へご案内ください」<br />　屋敷の建物はまだらに｜苔《こけ》むした灰いろの石造で、ひときわたかい中央部から、｜蟹《かに》のはさみのように曲った｜翼《つばさ》が左右につきでていた。一方の翼は窓のこわれを板でふさいであったり、屋根が一部｜陥没《かんぼつ》していたり、まるで｜廃墟《はいきよ》を見るような有様である。中央部もほとんどおなじくらい手入れが｜怠《おこた》ってあるが、右がわの翼だけはやや近代的で、窓に｜日《ひ》｜覆《おお》いがあったり、｜煙突《えんとつ》からそれぞれ青い｜煙《けむり》がたちのぼっていたりして、家族が住んでいるところとわかった。｜右端《みぎはし》の｜壁《かべ》にそって足場が組んであり、石の壁に大きな穴があいていたが、職人の働いている姿は見うけなかった。ホームズは手入れのゆき届かない｜芝《しば》｜生《ふ》をゆうゆうと歩きまわって、窓の状態を｜詳《くわ》しく調べた。<br />「この窓があなたの｜寝室《しんしつ》で、中央が姉上の、この｜母《おも》｜屋《や》にちかいのが父上のお部屋の窓でしょうね？」<br />「はい、でも私はいまこの中央の部屋にやすんでおります」<br />「改築中だけでしょう、それは？　ところでこの壁はべつに急いで修繕するほどのこともないようですね」<br />「はい、どうもなってはおりませんでした。これは私をほかの部屋へ追いだすための口実だと存じます」<br />「ほう、それは意味深長だ。この窓の反対がわにまっすぐに｜廊《ろう》｜下《か》があって、三つの寝室へはいるようになっているのですね？　寝室には廊下のほうにも窓がありますか？」<br />「はい。でもごく小さい窓でございますから、そこから出入りはできません」<br />「するとドアには鍵がかけてあったのですから、廊下のほうからは忍びこめませんね。ではすみませんがお部屋へはいって、｜鎧戸《よろいど》をしめてみてください」<br />　ストーナー嬢に鎧戸をしめさせておいて、ホームズはそとからそれをあけようと、いろいろ｜工《く》｜夫《ふう》してみたがどうしてもあかなかった。さしこみ｜錠《じよう》をぬくためのナイフを差しいれる｜隙《すき》がないのである。そこでこんどはレンズを出して、ちょうつがいを念入りに調べたが、ちょうつがいは｜頑丈《がんじよう》な鉄製で、｜堅《けん》｜固《ご》な石壁にしっかり｜埋《う》めこまれている。<br />「ふむ！」とホームズは｜当惑《とうわく》して顎をなでながらいった。「僕の仮定はどうも不可能にちかいようだな。この鎧戸はさしこみ錠をはめられたら、｜金輪際《こんりんざい》そとからはあけられない。じゃこんどは内部を調べてみましょう。何か得るところがあるかもしれない」<br />　小さな横戸をはいると、なかは白壁の廊下があり、三つの寝室のドアがならんでいた。ホームズが端の寝室、つまり壁に穴のある部屋は見ないというので、私たちはまっすぐに中央の、現にストーナー嬢の寝室であり、かつてその姉が死んだという寝室へはいっていった。<br />　そこはふるいいなか家風に、｜天井《てんじよう》が低くて大きな｜暖《だん》｜炉《ろ》のある質素な小さい部屋で、｜一隅《いちぐう》に茶いろの｜箪《たん》｜笥《す》が、他の一隅には白いカヴァーをかけた｜狭《せま》いベッドがすえてあり、｜化粧台《けしようだい》は窓の左がわに備えてあった。そのほか小さな｜籘《とう》｜椅子《いす》が二つと、中央に｜敷《し》いた正方形のウィルトン｜絨毯《じゆうたん》一枚がこの部屋の｜飾《かざ》りつけの全部である。羽目板やそのほかの部分はすべて虫のくった茶いろ仕上げの｜樫材《かしざい》で、おそらくこの家を建てたときのままなのであろう、古びて変色していた。ホームズは椅子の一つを｜隅《すみ》のほうへ引いていって腰をおろすと、部屋のなかは細大もらさず見てとろうと、｜黙《だま》って上下左右を見まわした。<br />「あの｜呼鈴《よびりん》はどこへ通じていますか？」<br />　しばらくして彼は、上からベッドのそばへ垂れ、端につけたふさが｜枕《まくら》のうえにだらりと乗っている｜太《＊》い｜紐《ひも》のことを｜尋《たず》ねた。【訳注　紐を引いて鳴らす旧式の呼鈴】<br />「あれは家政婦の部屋へ行っております」<br />「ほかのものにくらべて新しいようですね」<br />「はい、つけてからまだ二年くらいにしかなりませんから」<br />「姉上が｜頼《たの》んでつけておもらいになったんでしょうね？」<br />「いいえ、姉が使いますのを聞いたことがございません。私たちはいつでも、自分のことは自分で足してまいりました」<br />「なるほど。こんなに立派な紐は不必要だったでしょうね。ちょっと失礼して｜床《ゆか》を調べさせていただきますよ」<br />　ホームズはレンズ片手に腹ばいになり、手ばやくはいまわって板の合せ目を｜検《あらた》めた。それから周囲の羽目板をおなじ要領で調べ、最後にベッドのところへ行って、しばらくそれを見まもってから壁にそって見あげ見おろししていたが、何を思ったか呼鈴の紐をつかんでグイと強く引いた。<br />「おや、鳴らないぞ」<br />「鳴りませんですか？」<br />「鳴りません。鳴らないわけだ、針金につないでさえないです。こりゃアおもしろい。ほら、ご｜覧《らん》なさい。紐の端は空気ぬきの穴のうえのところで、｜鉤《かぎ》にむすびつけてありますよ」<br />「あら、｜妙《みよう》ですこと。私すこしも気がつきませんでしたわ」<br />「まったく妙ですよ」ホームズは紐を引いてみながらつぶやいた。「この部屋には｜合《が》｜点《てん》のゆかぬところが二、三ある。たとえば空気ぬきの穴を｜隣《となり》の部屋へ通じるようにあけるなんて、何というバカな建築技師だろう。おなじことならそとへあければ、新しい空気がはいってくるのに」<br />「あれもずっと近年こしらえましたのです」<br />「呼鈴とおなじころのことでしょうね？」<br />「はい、ほかにも四、五カ所、そのとき工事をいたしました」<br />「鳴らない呼鈴に風をとおさない｜通風孔《つうふうこう》――こいつは非常におもしろい性質をもつ問題ですよ。それではストーナーさん、こんどはこの｜奥《おく》の部屋を調べさせていただきたいものです」<br />　隣のグライムズビー・ロイロット博士の寝室は、大きさこそ｜娘《むすめ》たちのよりは大きかったが、設備はおなじように質素なものであった。折りたたみベッド、主として医書ばかりぎっしり｜詰《つ》まっている小さな木製の｜本棚《ほんだな》、ベッドのわきに｜肘掛《ひじかけ》椅子、壁によせておかれた｜粗《そ》｜末《まつ》な木の椅子、｜円卓《えんたく》、大きな金庫――これらが目についた｜主《おも》なものである。ホームズはそれらのものに｜鋭《するど》い注意を集中して、たんねんに見てまわってから、<br />「このなかには何がありますか？」と金庫をぴたぴたとたたいた。<br />「父の仕事上の書類がいれてございます」<br />「へえ、ではなかをご覧になったことがあるのですか？」<br />「何年かまえに、いちどだけ見たことがございます。なかは書類でいっぱいでございました」<br /><br />「｜猫《ねこ》かなにかいるんじゃありませんか？」<br />「いいえ、まあ、なんておもしろいことを！」<br />「だって、これをご覧なさい」ホームズは金庫のうえにあった牛乳の｜小《こ》｜皿《ざら》をとってみせた。<br />「いいえ、私どもでは猫は｜飼《か》っておりません。｜豹《ひよう》と｜狒々《ひひ》はおりますけれど」<br />「ああそうそう。そうでしたね。でも豹は大きな猫みたいなものです。こんな小さな皿に一｜杯《ぱい》きりの牛乳じゃ満足するはずはありませんけれどね。そうだ、一つ確かめておきたいことがあります」<br />　ホームズは木の椅子のまえにしゃがみこんで、非常に注意ぶかくそのシートの部分を検めた。<br />「ありがとう。これでだいぶはっきりしました」と彼は立ってレンズをポケットにおさめながらいった。「やア、ここにおもしろいものがある」<br />　彼の注意をひいたのは、ベッドの角にかけてあった小さな犬用の｜鞭《むち》である。鞭は先の紐の部分を丸く輪にしてむすんであった。<br />「ワトスン君、これを何だと思うね？」<br />「ただの鞭だろう。なんのためにそこを輪にしてむすんだのか知らないがね」<br />「これがかい？　ただの鞭とは見えないじゃないか。ああ世の中は｜恐《おそ》ろしい！　ことに｜知《ち》｜恵《え》のある人間が悪事に頭をしぼるようになったら、これほど恐ろしいことはない。ストーナーさん、これで見たいところは十分見せていただきましたから、庭の芝生へ出ようじゃありませんか」<br />　このときの調査のあとくらいホームズがむっつりと暗い顔をしたのを、私は見たことがなかった。三人つれだって芝生を｜往《い》ったりきたり、ぶらぶらしているのだが、｜眉《まゆ》にきっと｜皺《しわ》をよせてホームズの苦りきっていること。私もストーナー嬢も彼の｜黙想《もくそう》の｜邪《じや》｜魔《ま》になってはと、一言も口をきかないで五、六回も往復したろうか。<br />「ストーナーさん」やっと彼の｜思《し》｜索《さく》が一段落ついた。「あなたはあらゆる点で、私の忠告に絶対に服従してくださることが｜肝心《かんじん》ですよ」<br />「はい、きっとそういたします」<br />「事態がきわめて｜切迫《せつぱく》していますから、すこしでもためらうようなことがあってはなりません。私のいうとおりになさらないと、一命に｜係《かか》わるかもしれませんよ」<br />「｜誓《ちか》ってお言葉にしたがいます」<br />「まずだいいちに、今晩は私とワトスン君が二人で、あなたのお部屋で夜をあかさなければなりません」<br />　これにはストーナー嬢も私も｜驚《おどろ》いて、ホームズの顔を見なおした。<br />「必ずそうしなければなりません。お待ちなさい。あそこに見えるのが村の宿屋でしょうね？」<br />「はい、クラウン旅館でございます」<br />「あそこから、あなたのお部屋の窓が見えるでしょうね？」<br />「はい、よく見えます」<br />「父上が帰られたら、あなたは頭が痛いからといって、部屋へとじこもるのです。そして父上がおやすみになる様子が聞えたら、窓の鎧戸をあけ、ガラス戸の｜締《しま》りをはずして合図にランプを出しておいてください。そのあとであなたは必要な品をもって、あなたがもと使っていらした部屋へいっておやすみなさい。｜修繕中《しゆうぜんちゆう》でもひと晩くらいはどうにか｜我《が》｜慢《まん》ができなくはありますまい」<br />「はい、それは何でもございません」<br />「そしてほかのことは、すっかり私たちにおまかせくださるのです」<br />「それであなたがたは何をなさいますの？」<br />「あなたのお部屋で夜をあかして、あなたを驚かした物音が何の音だか確かめるのです」<br />「ではあなたには、もうすっかりおわかりなんでございましょうね？」ストーナー嬢はホームズの｜袖《そで》に手をかけていった。<br />「まあね」<br />「ではお願いでございます。姉の｜亡《な》くなりました原因をお教えくださいませ」<br />「それを申しあげるのは、たしかな｜証拠《しようこ》を手にいれてからのことにしたいのです」<br /><br />「では私の考えが正しいかどうかだけでもおっしゃってくださいませ。姉はやっぱり何かに急に驚いて亡くなりましたのでしょうか？」<br />「そうではありますまいね。もっと何か捕えどころのある原因があったろうと考えます。それではストーナーさん、私たちはもう参ります。ロイロット博士が帰ってきて見つかると、せっかく私たちが来たのがむだになりますからね。ではのちほど。私の申しあげたとおりにしてさえくだされば、じきに危険を除いてあげられるのですから、けっして心配なさらないで、勇気をお出しなさい」<br />　クラウン旅館で居間つきの寝室を｜占領《せんりよう》するのは造作もないことだった。それは二階の一画で、窓からはストーク・モーラン屋敷の入口の｜並《なみ》｜木《き》｜路《みち》や、建物の現在使われている部分などが、一望のうちに見わたされた。夕ぐれのころロイロット博士が馬車で帰ってくるのが見えた。｜手《た》｜綱《づな》をとる少年に比して恐ろしく｜巨大《きよだい》な姿。少年が重い鉄門をあけかねて、すこしばかり手間どっていると思ったら、たちまち博士が馬車のうえから｜荒《あら》い声でどなりつけるのが聞え、少年に向って｜拳《こぶし》をふりあげて｜威《い》｜嚇《かく》するのが見られた。馬車はふたたび走りだした。そして二、三分後には居間の一つにランプがともされたと見え、木立のあいだにパッと光がさした。<br />「ねえワトスン君」｜迫《せま》りくる｜夕闇《ゆうやみ》のなかでホームズが話しかけた。「今晩君を引っぱりだしてもいいものか、｜僕《ぼく》は少々ためらっているんだよ。みすみす危険のあるのがわかってるんだからね」<br />「僕がいたって助けにゃならないのかい？」<br />「そりゃあ、どんなに助かるか知れやしない」<br />「じゃどんなことをしたって、僕は行くよ」<br />「そうかい。感謝するよ」<br />「危険があるというが、すると君はあの家で、僕が気のつかなかったものを何か見てきたんだね？」<br />「いや、何も変ったものを見たわけじゃないよ。推定だけはいくらか深かろうと思うがね。見るだけなら君だって僕とおなじだけには見ていたじゃないか」<br />「僕が変だと気がついたのは呼鈴だけだ。それも何のためにあんなことをしたんだか、まったく見当もつかないんだがね」<br />「通風孔だって見たろう？」<br />「見たさ。見たことは見たけれど、部屋と部屋とのあいだに小さな穴があるのは、それほど不思議がることはないと思うよ。それにあの穴は｜鼠《ねずみ》も通れないくらい小さな穴なんだものね」<br />「僕はこの土地へ来るまえから、通風孔はあるとにらんでいた」<br />「まさか！」<br />「いや、ちゃんと知っていたんだ。あの娘の話のうちに、姉がロイロット博士の葉巻の｜匂《にお》いに｜悩《なや》まされたというところがあったろう？それを聞いただけで、二つの部屋に｜連絡《れんらく》があるのを思わせる。しかもそれはきわめて小さい穴でなければならない。ドアか何かの大きなものなら、必ず｜検《けん》｜屍《し》｜官《かん》の注意をひいて問題になっているはずだからね。そこで僕はてっきり通風孔と｜踏《ふ》んだのだ」<br />「それにしたって、あんな小さなものが害にはなるまい」<br />「すくなくとも時間的に不思議な偶然の一致があるのは注意を要する。通風孔と呼鈴の工事と姉の死とがだいたい同じころのできごとだ。変だとは思わないかい？」<br />「さア、何か関連でもあるのかしら？」<br />「あの娘の部屋のベッドは非常に妙だと思わなかったかい？」<br />「気がつかなかったね」<br />「あのベッドは床に｜鎹《かすがい》どめになっていた。床に固定したベッドというものがどこにある？」<br />「そいつは僕も見たことがないようだな」<br />「姉はベッドを動かしたくても動かせなかったんだ。ベッドは通風孔と綱とにたいして、つねに同じ関係の位置にあった。――あの紐が呼鈴用でないことは確実だから、あれは紐でなくむしろ綱というべきだろう」<br />「ふむ！　僕はなんだか君のいってることが、おぼろげながらわかってきた気がするよ。これはじつに恐るべき｜巧妙《こうみよう》な犯罪がまさに実行されようとしているのじゃないか？」<br />「じつに巧妙、じつに恐るべき犯罪だ。医者が悪事をはじめるとなると、最も恐るべきことをやるものだ。｜彼《かれ》らは度胸もあり、学識ももっているからね。ジョン・クックを毒殺したパーマーにしても、自分の妻を毒殺したプリッチャードにしても、医者としては一流だったんだ。この男にいたっては、あの手合をしのぐ｜曲者《くせもの》だが、それでも僕はそのうえを｜越《こ》すことができるつもりだ。今晩はずいぶん恐ろしい思いをしなきゃならないんだから、せめていまのうちに二、三時間でも、静かにパイプをやりながら｜愉《ゆ》｜快《かい》にすごそうよ」<br />　<br />　｜樹《き》の間をもれていたあかりは九時ごろに消えてしまって、｜屋《や》｜敷《しき》のほうはまっ暗になった。それから二時間が静かにすぎて、時計が十一時をうったと思うと、とつぜん、正面に一個のあかりがきらめきだした。<br />「合図のあかりだ。ふむ、まん中の窓だな」ホームズは椅子をけって立ちあがった。<br />　出るときホームズは宿の｜亭主《ていしゆ》を｜捕《つか》まえて、知人を訪問するのだが都合では朝まで帰らないかもしれぬと告げた。暗い戸外に出て往来に立つと、冷たい風がさっと｜頬《ほお》をなでた。不気味な使命をおびた私たちの｜唯一《ゆいいつ》の道しるべとなってくれる黄いろいランプの光が、樹の間にちらちらと｜明滅《めいめつ》する。<br />　｜塀《へい》のくずれがそのままに手入れもされず大きく口をあいていたから、屋敷うちへはいるにはほとんど何の苦労もなかった。樹の間をくぐって｜芝《しば》｜生《ふ》へたどりつき、それを横断して窓からはいりこもうとすると、こんもり｜茂《しげ》った｜月桂樹《げつけいじゆ》のやぶのなかから、不具の子供のような不気味なものがとび出して、みずから草のうえに｜倒《たお》れて手足をもがいていたが、たちまち起きあがって闇のなかへ姿を｜隠《かく》してしまった。<br />「おやッ、見たかい？」私は息をころした。<br />　ホームズもちょっと驚いたらしい。内心の｜動揺《どうよう》にぎゅっと強く私の手首を｜握《にぎ》りしめたが、すぐに低い声で笑いをもらし、私の耳に口をよせていった。<br />「あれはかわいい家族の一員、｜狒々《ひひ》なんだよ」<br />　そうだ、ロイロット博士の愛している狒々のことを忘れていた。このほかに｜豹《ひよう》もいるはずだが、こいつは用心しないといつどこからとびだして、うしろからがぶりとやられるかもしれない。正直なところ私は、ホームズをまねて｜靴《くつ》をぬぎ窓から｜寝室《しんしつ》へはいりこんだときは、やれやれよかったとほっとしたのである。<br />　ホームズは音を立てないように｜鎧戸《よろいど》をしめ、ランプをテーブルにうつして、おもむろに部屋のなかを見まわした。部屋のなかはひる間見たのとすこしも変りはない。ホームズは私のそばへすりよって、手をらっぱのようにして私の耳へあて、やっと聞きとれる低い声でささやいた。<br />「こそっとでも音をたてると、計画がまるでだめになるんだよ」<br />　私はうなずいて、｜了解《りようかい》したのを知らせた。<br />「あかりなしですわっているんだ。つけると通風孔から見えるからね」<br />　私はふたたびうなずいた。<br />「｜眠《ねむ》っちゃいけないよ。眠ると一命にも係わるかもしれない。ピストルをいつでも使えるように用意してね、その椅子にいたまえ。僕はベッドにこっちから｜腰《こし》かけている」<br />　私はピストルを出してテーブルの上においた。<br />　ホームズはもってきた細長いステッキを｜膝《ひざ》のわきにおき、そのそばへマッチと｜蝋燭《ろうそく》を一本用意した。それからランプの｜芯《しん》を回して消したので、あたりはまっ暗になってしまった。<br />　あの恐ろしかった｜徹《てつ》｜夜《や》がどうして忘れられよう。いまでもはっきり当時を思い｜浮《うか》べることができるが、じっとすわって耳をすましているのに、ことりという物音もしない。わずか数フィートをへだてたばかりでホームズが、私にも｜劣《おと》らず針のように神経をとがらせて｜緊《きん》｜張《ちよう》しているにちがいないのに、息づかいさえ聞えないのである。鎧戸がしめてあるから部屋のなかはうすあかりさえない真の闇で、そとではときどき夜鳥の鳴くのが聞え、たったいちどだけ窓のすぐそばで、長く尾をひいた猫の鳴声のようなものがしたが、それは豹がとき放たれているのだと知れた。はるかに遠い教会で十五分ごとに鳴る｜荘重《そうちよう》な｜鐘《かね》の音が聞えた。その鐘と鐘のあいだの十五分がどんなにながく感じられたことか！　十二時が鳴り、一時二時が鳴り、そして三時が鳴ったが、それでもまだ私たちは緊張しきって、無言の行をつづけなければならなかった。<br />　とつぜん、｜通風孔《つうふうこう》の方角からパッと光がさした。すぐ消えてしまいはしたが、油の燃える匂い、金属の熱せられる匂いがぷんと鼻をうった。｜誰《だれ》か｜隣《となり》の部屋で｜龕灯《がんどう》をつけたのだ。静かに人の動く気配が感じられた。が、それもすぐ静まり、ただ龕灯の燃える匂いだけがしだいに強くなった。耳だけを極度に緊張させていること、それから三十分。ふと別の音がかすかに聞えるようになった。きわめて｜柔《やわ》らかくおだやかな、さやさやと｜薬《や》｜缶《かん》から細く湯気でもふきだすような音である。それが聞えだすとすぐにホームズは立ちあがり、マッチを｜擦《す》って、｜呼鈴《よびりん》の綱をはっしとばかりステッキで強くうった。<br /><br /><br />「見たかい？　え、あれを見たろう？」ホームズがうわずった声で｜叫《さけ》んだ。<br />　だが私には何も見えはしなかった。ホームズがマッチを擦った｜瞬間《しゆんかん》に、低い｜口笛《くちぶえ》をはっきりと聞くことは聞いた。けれども闇に慣れた｜眼《め》にマッチの｜閃光《せんこう》がぱっとはいったのでまぶしくて、彼が何をあんなにひどくうちすえたのか、私には見てとれなかったのである。私の見たのは彼の顔が死人のごとく血の気がなく、｜恐怖《きようふ》と｜嫌《けん》｜悪《お》とをいっぱいにうかべていたことだけである。<br />　ホームズはうつ手をとめて、じっと通風孔のほうを見あげていた。すると、世にも恐ろしい悲鳴が夜の｜静寂《せいじやく》を破って、私たちを驚かせた。その悲鳴はしだいに大きくなった。苦痛と恐怖と｜憤《ふん》｜怒《ぬ》とを交えた叫びであった。あとで聞いたところによればこの悲鳴は村まで――村を通りこして牧師館までも聞え、人々の眠りを破ったばかりでなく、なかには｜寝《ね》｜床《どこ》をとびだした人もあるという。私たちは心の底まで縮みあがり、たがいに顔を見合せたまま、しばらくそこに立ちすくんでいるのみであった。だがさしもの声もしばらくするとやんで、あたりはふたたびもとの静寂にもどった。<br />「な、なんだろう？」<br />「すべてが終ったしらせさ。しかも、そう、結局こうなるのがいちばんよかったのだ。さ、ピストルをもってきたまえ。ロイロット博士の部屋へ行ってみよう」<br />　ホームズは緊張した顔つきでランプをつけ、先に立って｜廊《ろう》｜下《か》を進んだ。二度ドアをたたいてみたが返事がないので、そのままハンドルを回してなかへはいっていった。私は｜撃鉄《げきてつ》をあげたピストルを手に、すぐそのあとにつづいた。<br />　まず私たちは異様な光景にうたれた。テーブルのうえには半ば窓をあけた龕灯があって、それから流れでる明るい光のなかに、戸をあけたままの金庫があった。ロイロット博士はテーブルのわきに、長い鼠いろのガウンにくるまって、｜素《す》｜足《あし》に｜踵《かかと》のない赤いトルコ・スリッパを｜突《つ》っかけ、木の｜椅子《いす》に腰かけていた。そしてひる間見た短い｜柄《え》に長い｜紐《ひも》のついた鞭を膝に、ぐっと｜仰《あお》｜向《む》いて｜天井《てんじよう》の一角をにらみつけており、頭のまわりには茶色の｜斑点《はんてん》のある黄いろい変な紐みたいなものを、しっかりまきつけているのであった。私たちが無断ではいったのに、口もきかなければ身動き一つしないのである。<br /><br />「紐だよ。あれが｜まだらの紐《スペクルド・バンド》だよ」ホームズがささやいた。<br />　私は一歩前へすすみでた。するとふいに、頭にまいた｜奇《き》｜怪《かい》な紐が動きだして、ずんぐり太い｜菱形《ひしがた》の頭を｜押《お》したて、博士の｜髪《かみ》のなかからいまわしい｜蛇《へび》がぬっと｜鎌首《かまくび》をもたげたのである。<br />「｜沼毒蛇《ぬまどくへび》だ。インドで最も｜恐《おそ》るべき毒蛇なんだ。博士は｜咬《か》まれてから十秒以内に死んでいる。暴力をふるう者には必ず暴力がはねかえってくる。ひとのために穴を｜掘《ほ》る者は、必ず自分がその穴に落ちるのだ。まずこの蛇を｜巣《す》へ追いこんどいて、ストーナー｜嬢《じよう》を安全な場所へうつしてから、このことを警察へ届けるとしよう」<br />　ホームズは死人の膝から手ばやく鞭をとってその輪を蛇の頭にかけ、恐ろしい止り木から引きはなして、手をいっぱいに｜伸《の》ばして運んでゆき、金庫のなかへ投げこむや｜否《いな》や、ぴたりとその戸をしめてしまった。<br />　<br />　以上がストーク・モーランのグライムズビー・ロイロット博士の死の真相である。意外に話がながくなったので、｜怖《おそ》れおののいているストーナー嬢にこの悲報をどんなふうに話して聞かせたか、どんなふうにして｜彼女《かのじよ》をハローのよき叔母さんのもとへ送り届けたか、また博士は｜軽率《けいそつ》にも危険な毒蛇をもてあそんでいて誤ってかまれて死んだのだという結論に達するまでの、警察の調べがいかにじれったいものであったかという一条など述べて、ながい話をこのうえながくする必要はあるまい。もっとも当時私にはまだすこしわかりかねる節もあったが、それは翌日帰りの汽車のなかでホームズが説明してくれた。その説明だけをちょっとここにつけ加えておこう。<br />「僕はまったく誤った推定を下していた。不十分な資料で推理するのがつねに危険を｜伴《ともな》うという格好な実例だよ。付近にジプシーのいたこと、死んだ姉がマッチの光でちらと見て口走ったバンドという言葉などは、｜僕《ぼく》をまったく誤った方向へすすませるに十分だった。ただ現場へ来てみて、あの部屋にいる者を｜嚇《おど》かした危険が何ものであったにもせよ、それは窓から来るのでもなく入口から｜侵入《しんにゆう》したのでもありえないと知って、出なおして再考することにした点だけが、わずかに僕の｜誇《ほこ》りうるところだろう。<br />　まえにも話したとおり僕の注意は｜敏速《びんそく》に、通風孔とベッドに垂れている呼鈴の紐とに向けられた。紐がまったく呼鈴の役をなさないのを知り、ベッドが｜釘《くぎ》づけになっているのを見て、すぐこいつはあの穴から何かが出てきてベッドへゆくための足場じゃないかという考えがうかんだ。そこまでくれば蛇という観念はすぐおこる。そして博士がインドから動物をとりよせたという事実と考えあわせて、これはいよいよほんものをたどりあてたと思った。どんな｜分析《ぶんせき》試験にあっても見破られないですむ毒物を使うという考えは、ながらく東洋へ行ってきた東洋仕込みの利口な男の思いつきそうなことだ。この毒の効果が｜迅速《じんそく》だということも、彼としては有利だと計算にいれていたにちがいない。｜毒《どく》｜牙《が》のくいこんだ｜痕《あと》はぽつりとほんの小さな黒い傷が二つのこるだけだから、よくよく目のきく検屍官でないかぎり、見のがしてしまうほうが｜普《ふ》｜通《つう》なんだ。<br />　それから僕は口笛のことを考えた。むろん夜のあけないうちに蛇を呼びもどさなければ、｜犠《ぎ》｜牲者《せいしや》に見つかってしまう。そこでたぶんあの牛乳を使って、口笛で呼べばもどってくるように蛇を慣らしたにちがいない。そうして最もよいと信ずる時刻を見はからって、紐を伝わってベッドへ降りてゆくように、蛇を通風孔へいれてやったんだ。もちろん蛇はいちどで必ず咬むとはきまっていない。毎夜はなしてやっても、あるいは一週間くらいも咬まずにすぎるかもしれない。それにしてもいつかは咬みつかないではおかないのだ。<br />　ここまではロイロットの部屋へはいってみないうちに推定してしまった。部屋へはいって椅子を調べてみて、彼がしばしばそのうえに乗るということを発見した。むろん蛇を通風孔へいれるとき踏み台にしたのだ。そのうえ金庫、ミルクの｜皿《さら》、輪にして結んだ鞭の紐、これだけ見ればもはや一点疑問の余地はない。<br />　ストーナー嬢がガチャンと金物の落ちる音を聞いたというのは、ロイロットが蛇を金庫へいれて大急ぎで戸をしめた音だ。ここまでわかると僕が証拠を握るためどんな手段をとったか、それは君の知っているとおりだ。君も聞いたろうが、あのとき蛇がシュッシュッという音を出すのを耳にしたから、すぐマッチを擦ってステッキでうったんだ」<br />「その結果、蛇は通風孔から｜逃《に》げてかえったんだね」<br />「そしてその結果、｜壁《かべ》の向うで主人に｜襲《おそ》いかかることになったのだ。僕の叩いたのが二つ三つよほどきいたものだから、｜怒《おこ》って恐ろしい蛇の｜本性《ほんしよう》を現わし、目につきしだい相手選ばず、がぶりと咬みついたのだ。したがって僕としてはロイロットの死に間接の責任はあるわけだが、さればといってたいして良心に｜負《ふ》｜担《たん》も感じないがね」<br />―一八九二年二月『ストランド』誌発表―</span> ]]>
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<dc:creator>柳ちぁん</dc:creator>
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<title>お腹に子供ができちゃぃました</title>
<description> はあーいいいりゅぅちぁんですぅ鳳ちんヵらバトン～んでゎ～■地雷バトンです■ ※踏んだ人は必ずやりましょう。 ←ｺｺ重要タイトルは下記から選択。 ■好きな人ができた！ ■彼氏（or彼女）ができた！ ■[報告]結婚することになりました。 ■[報告]子供ができました。 ■別れを考えてます… では問題スタート♪ [問１] 血液型は？　ぇびｂｂ[問２] 今付き合っている（結婚している）人はいる？ ぃません[問３] 好きな人はいる？ ぃません[問４
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<![CDATA[ はあーいいい<br /><br /><br /><br />りゅぅちぁんですぅ<br /><br /><br />鳳ちんヵらバトン～<br /><br />んでゎ～<br /><br /><br />■地雷バトンです■ <br />※踏んだ人は必ずやりましょう。 ←ｺｺ重要<br /><br />タイトルは下記から選択。 <br />■好きな人ができた！ <br />■彼氏（or彼女）ができた！ <br />■[報告]結婚することになりました。 <br />■[報告]子供ができました。 <br />■別れを考えてます… <br /><br /><br />では問題スタート♪ <br /><br />[問１] <br />血液型は？　<br />ぇびｂｂ<br /><br />[問２] <br />今付き合っている（結婚している）人はいる？ <br />ぃません<br /><br />[問３] <br />好きな人はいる？ <br />ぃません<br /><br />[問４] <br />好みのタイプを探っちゃいます！ <br />下記項目を５段階で表してね。 <br />１：いやだ <br />２：あまり好きじゃない <br />３：どっちでもいい <br />４：ちょっと欲しいポイント <br />５：重要なポイント！ <br /><br />・可愛い 4<br />・かっこいい、綺麗 3<br />・背が高い 3<br />・スタイルがいい 5<br />・オシャレ 4　　<br />・独特なセンス 3<br />・細い 4　<br />・太い 1　<br />・優しい 5<br />・まじめ 3<br />・面白い 3<br />・頭がいい 3<br />・天然 3<br />・まめ（細かい） 3<br />・引っ張ってくれる 3<br />・変わってる 3<br />・自分を持っている 4<br />・夢を持っている 4<br />・ヤキモチやき 4　<br />・束縛する 2<br />・わがまま 4<br />・尽くしてくれる 4<br />・金持ち 3<br />・ヒヤヒヤドキドキ危険な香り 1<br />・物知り 3<br />・アクティブ 2　<br />・オタク、腐女子 2<br />・気が強い 2<br />・気が弱い 2<br />[問５] <br />こんな異性はどう思う？ <br />下記項目を５段階で表してね。 <br />１：全く気にならない <br />２：あまり気にならない <br />３：どっちでもいい <br />４：ちょっといやだ <br />５：すごくいやだ <br /><br />・箸の持ち方が悪い 5<br />・ご飯の食べ方が汚い 5<br />・口を空けて食べる 5　<br />・大食い 3<br />・ゴミ箱以外へのぽい捨て 3<br />・たばこを吸う 3<br />・歩きたばこをする 3<br />・電車で脚を組む 3　　<br />・声がデカイ 3<br />・オーバーリアクション 3<br />・いじめ好き 2<br />・免許を持っていない １<br />・車がヤン車 5<br />・車がイタ車 5<br />・スピード狂 4　<br />・部屋を綺麗に出来ない 1<br />・素直じゃない 4<br />・すぐ謝る 3<br />・浮気性 5<br />・ひとりに絞れない 5<br />・仕事より恋人 4<br />・ギャンブル大好き 4<br />・ゲーム大好き 3<br />・夜のお仕事 5<br />・変わった性癖 3<br /><br />[問６] <br />問２でYESの人、 <br />問3・４と比べて相手はどう？ <br /><br /><br />[問７] <br />結婚願望はある？ <br />いくつ位が理想？ <br />（既婚者は結婚した歳を） <br /><br />20代で結婚したぃねｂｂ<br /><br />[問８] <br />結婚式は洋風がいい？和風がいい？ <br />（既婚者はどっちだったかを） <br />洋風で <br /><br />[問９] <br />子供は何人欲しい？ <br />性別も書いてね <br />２，３人？<br />女のこゎ一人でぃぃょ　ゎら<br /><br />[問10] <br />やっぱり自分の家を持ちたい？ <br />一軒家？マンション？<br />ぃえがぃーょ<br /><br />[問11] <br />家族で田舎暮らし、都会暮らし、どっちがいい？ <br />田舎<br /><br />[問12] <br />バトンが回ってきた人をどう思う？ <br />当てはまるものに○を。（複数可） <br /><br /><br /><br />・可愛い　○<br />・かっこいい、綺麗○　<br />・優しい　○　<br />・頭がよい ○<br />・面白い　○<br />・頭がいい　○<br />・天然 ×<br />・変わってる ○<br />・わがまま ×<br />・物知り ○<br />・オタク、腐女子 ○<br />・よくわからない ○<br />・仲良くしていたい　○<br />・付き合いたい 　◎<br />・結婚して　ぃゃ～　ゎら<br /><br />[問13] <br />下記URLであなたの動物を検索してください。（動物占い） <br />http://www.d-uranai.shogakukan.co.jp/uranai/index.html <br /><br /><br />http://d-uranai.shogakukan.co.jp/uranai/kekka/animal11.html<br /><br />ペガサスでしたあー<br />詳細ゎ↑で<br /><br />なんヵめっちゃあたってるょおな；；<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />[問14] <br />次にバトンが回ってきた人との相性を占ってください。 <br /><br /><br />http://chaca.nepro.net/animalmania/uranai/palm.php3<br /><br />[問15] <br />バトンを回した人に一言。<br /><br /><br /> ]]>
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<dc:subject>日記</dc:subject>
<dc:date>2009-03-30T18:15:21+09:00</dc:date>
<dc:creator>柳ちぁん</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
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